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第7話
洞窟の最奥に、巨大な水晶がそびえ立っていたのだ。ゴツゴツした岩に守られるように、透明な水晶が静かに佇んでいる。
しかもその中には、見たことのない生き物が閉じこめられていた。
「これは……」
それは銀髪の青年だった。形のいい眉に上品に通った鼻筋。肩までの銀髪は星のように煌めき、陶器のような白い肌によくマッチしている。一目見ただけで溜息が出るほどの美しさだった。
けれど人間ではない。頭にはキツネの耳と思しきものがついており、ふわふわの尻尾も九本生えている。
――これ……化け物とか、妖怪とか、そういうヤツか……?
今時そんなものいるわけないだろ……とは思わなかった。
晴斗は「絶対に神様はいる!」と主張するほど神仏に縋っているわけではないが、「目に見えるものしか信じない」と豪語するほど頭が固いわけでもなかった。機会があれば神社や寺にお参りするし、占いやおみくじに頼りたくなることもある。目には見えないけれど、神様や幽霊、妖怪などはいてもおかしくないと思っていた。
だから、人外の生き物を発見したことそのものに関しては、さほど驚きはしなかった。
問題は、何故それがこんなところにいるのかということ。そして彼を見た途端、再びあの胸の痛みが襲ってきたということだ。
「っ……」
なんだろう、この気持ち。悲しいのに嬉しい。切ないのに愛しい。初めて見たはずなのに、何故かとっても懐かしい感じがする。長い間待たせていた恋人に、ようやく巡り会えたような気分だ。どうしてこんな気持ちになるんだろう。矛盾した気持ちがぐるぐる渦巻いて、胸がいっぱいになってしまう。
――早く抱き締めたい……。
無性にそんな欲望がこみ上げてきて、晴斗は水晶に近づいた。青年が目覚める気配はなかった。死んでいるわけではないだろうけど、どうやったら目覚めるのだろう。
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