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第6話

 家を出て数分もしないうちに、横殴りの雨で全身がずぶ濡れになった。胸を抉られるような痛みも強くなってきた。  ――まったく、天気予報なんて嘘ばっかりだな……! 「明日は気持ちのいい晴れでしょう」なんて言っていたのに、この通り真逆の結果になってしまった。これだったら、自分のカンの方が余程信用できる。実際、降水確率0%の日に、念のために持って行った折り畳み傘が大活躍した……なんて経験は、掃いて捨てるほどあった。気象予報士もスーパーコンピューターにばかり頼ってないで、たまには自分のカンを働かせればいいのに。  心の中で愚痴ってみたが、それでも立ち止まるわけにはいかなかった。  誰かが俺を呼んでいる。誰かが俺を待っている。早く行かなくちゃ。早く、早く……。 「…………」  なんとなく裏山から呼ばれているような気がして、晴斗はそこに入っていった。  裏山は街中よりもひどい状況だった。ただでさえ嵐で進みにくい上に、木々は枝を振り乱し、地面はぬかるんで晴斗の歩みを妨害してくる。勢いよく飛ばされた小枝が身体に当たり、怪我をしそうになった。傘もまるで役に立たず、途中で骨が折れかけてしまった。  それでも、引き返す気にはなれなかった。奥に進めば進むほど、ざわざわした胸騒ぎが強くなっていく。間違いなくこの先に何かがある。それだけは確実に言える。  ――本当になんなんだ、この気持ちは……。  何かに引き寄せられるように歩いていたら、ふと、茂みに隠れた斜面にぽっかりと穴が開いているのを見つけた。 「……なんだこれ?」  普通の散歩コースとは少しズレているが、あんなところに穴なんてあっただろうか。しばらく来ていなかったから覚えていない。 「…………」  斜面は緩やかである。山菜取りのおばあちゃんでも登れそうなレベルだ。  晴斗は思い切って穴の近くまで登ってみた。入り口はやや狭かったが、中は意外と広々としているみたいで、子供の秘密基地にも使えそうなくらいだった。  四つん這いになって、晴斗は中に入ってみた。思った通り、一メートルほど進んだら一気に中が開けてきた。子供の秘密基地どころか、大人が身を屈めずに歩き回れるほどの高さがあった。  ――こんなに広かったのか……。  その広さにも驚いたが、奥まで進んでみて更に驚いた。

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