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第5話

 二〇一八年・夏。京都をひどい嵐が直撃した。  大学の夏休みに入り、実家に帰省していた安倍晴斗(あべはると)は、窓ガラスに叩きつける雨粒をぼんやり眺めていた。  キリッとした目つきに、すっ……と通った鼻筋。顔のパーツも抜群に整っており、身長や体格も同年代の男子の中では優れている方だった。外見だけなら、晴斗はかなりモテる要素を持っていた。実際、自分の外見に惹かれたらしい女子とつき合ったこともある。  しかしどういうわけか、どの子とも長続きせずフラれてしまうというのが常だった。何かマズいことをした覚えはないのだが、よく「イメージと違った」とか「なんかウザい」とか言われて別れを切り出されてしまう。昨日も電話で、三ヶ月ほどつき合った彼女に「もう別れて」と言われたばかりだ。  そして、フラれた翌日には必ず雨が降った。晴斗の心を代弁するかのように、しとしととした雨が一日中続くのだ。そんな天気を見る度に晴斗は、きっと自分の代わりに泣いてくれているんだろうな、と思った。  だが、今回の嵐はそれとは少し違うような気がする。  ――まるで大号泣じゃねぇか……。  晴斗は胸に手を当てた。ズキン、と心臓が痛んだ。持病ではない。晴斗は生まれてこの方、大きな病気は一度もしたことがなかった。  ただ、先程から何故かものすごく胸が苦しくなるのだ。悲しいような、切ないような、それでいて懐かしいような、不思議な気分。胸を掻き毟られるような歯がゆさと、心が張り裂けそうな悔しさが同時にこみ上げてきて、意味もないのに泣きたくなってしまう。  ――これは俺の気持ちじゃない。  晴斗は窓越しに空を見上げた。  ネガティブな感情が全て混ざり合い、灰色に染まって荒れ狂っているようだった。嵐の中から誰かの悲痛な叫び声が聞こえてくる。寂しい、会いたい、早く来て……。 「…………」  座っている椅子から腰を浮かしかけ、晴斗はハッと我に返った。  一体どこへ行こうというのか。何故切ないのか、何故苦しいのか、誰が叫んでいるのかもわからないのに。この嵐の中、闇雲に出て行ってもずぶ濡れになるだけなのに。  でも……。  ――やっぱり我慢できない!  嵐はひどいけど、このままじっとしている方がムズムズして気持ち悪かった。  晴斗は雨ガッパを着込み、なるべく丈夫そうな傘を掴んで家を飛び出した。

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