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第11話
「お前、晴明がいるって言ったじゃないか! また嘘をついたのか! 本当に殺すぞ!」
「だから、安倍晴明はもうとっくに死んでるんだよ! さっきもそう言っただろ。それがこうやって奉られて神社になってるんだ」
「だけど!」
「それに……来る途中でいろんなもの見ただろ? 平安時代とは全然違う風景。あれが『今現在』の姿なんだよ」
「で……でも……」
「いきなり目覚めて戸惑ってるのはわかるけど、もう少し冷静になってくれよ。俺に怒ったって始まらないんだから。な?」
そう言ったら、青年は力なくうなだれ、へなへなとその場に座り込んでしまった。キツネの耳は力なく垂れ下がり、尻尾も九本全部しおれてしまっている。
「お、おい、どうしたんだ?」
「晴明……本当にもういないのか……」
「あ……ああ、それは間違いないな……」
「そんな……。それなら私は……私は一体どうすればいいんだ……」
「どうって……ええと……」
膝を抱え、落ち込んでしまった青年。がっくりと肩を落とし、今にも泣き出しそうになっている。
――ああー……なんか逆効果だったかな……。
晴明神社に来れば少しは気分も紛れると思ったのだが。
とはいえ、いくら本殿前で泣きじゃくっても安倍晴明が蘇るわけではない。なんとか元気を出してもらわないと困る。
考えあぐねた挙句、晴斗は「ちょっと待ってな」と言って、晴明神社に売っている御守りをひとつ購入した。白い布地に五芒星の入ったシンプルな御守りだ。
「ほら、これやるよ」
「……?」
「晴明さんの御守りだ。いろんな御利益があるぞ」
「晴明の……?」
青年は御守りを受け取り、手の上でじっとそれを眺めた。
少しでも慰めになればいいなと思ってプレゼントしたのだが、相変わらず彼の表情は硬いままだった。
――やっぱ御守りひとつくらいじゃ、どうにもならないか……。
一体どうすればこの青年を慰めることができるのだろう。
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