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第12話

 困っていたら、彼は御守りを固く握り締めた。まるで形見でも扱うかのように、大事そうに胸に抱く。そして溜息混じりに言った。 「……すまない。あなたには迷惑をかけたようだ。私のことは気にせず、もう行っていい」 「え。いや、そんな……」  そう言ったきり、今度は本殿前から動こうとしない。  そんな姿を見ていたら、心臓がズキズキ痛くなってきた。  ――こういうの、見てらんねぇんだよな……。  昔、駅前でいつも同じ時間、同じ場所に座っている白い犬を見かけたことがある。その犬は、雨の日も風の日も毎日駅前に通い、ずっと誰かの帰りを待っていた。けれど、お目当ての人物はいつまで待っても帰ってきてくれなくて、電車が通り過ぎるたびに悲しげな視線を送っていた。後で知ったことだが、その犬のご主人様は、仕事先で不慮の事故に遭い亡くなってしまったのだという。  どんなに願っても、自分を可愛がってくれた人はもう戻ってこない。それでも待たずにはいられない……。  そう思ったら、なんだか放っておけなくなってしまった。 「なあ……お前、これから行くとこあるのか?」 「……?」 「もし行くとこがないなら、俺のうちに来ないか?」  彼にとってのご主人様はもういない。でも、代わりにしばらく面倒を見ることくらいはできるはず。  晴斗はなるべく優しく青年に話しかけた。 「そこに座ってても、いずれ追い出されちゃうだろ? いきなり目覚めて戸惑うことも多いだろうし、しばらくはうちにいないか? 俺はお前が何者だろうと、そんなに気にならないし……」 「…………」  青年は顔を上げて晴斗を見た。そして眩しそうに目を細めた。 「……晴明……」 「えっ?」 「……いや、違う。あなたは晴明じゃない……」  ゆるゆると首を振り、ゆっくり立ち上がる青年。元気が出たというよりは、現状に対する諦めの方が強いみたいだった。

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