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第13話
「……どうせ他に行くあてもない。うちに来いというなら、それに従う」
「そ、そうか……。じゃあ、そろそろ行こうか」
青年は無言で頷いた。
晴斗は彼を連れて、静かに神社を出た。再び雨にならないうちに急いで実家に向かった。
途中あることに気づき、青年に聞いてみた。
「ところでお前のこと、これからなんて呼べばいいんだ?」
「……え?」
「妖狐にも名前くらいあるだろ? お前、なんて名前なんだ?」
「……名前はない。あなたの好きに呼べばいい」
「好きにって……じゃあ『ポチ』とか『ミケ』とか勝手につけちゃっていいのかよ?」
「……いや、それは……」
明らかに不服そうな顔をする青年。「好きに呼べばいい」なんて言っているが、ペットのような名前で呼ばれるのは心外のようだ。
青年は小さく溜息をつき、視線を外してこう言った。
「名前はないが……強いて言うなら『九尾』と呼ばれることが多かった」
「九尾?」
「ああ……私は『九尾の狐』だから……」
「なるほど。尻尾が九本あるから『九尾』ってことか……」
晴斗はにこりと微笑み、九尾に向かって手を差し伸べた。
「俺は安倍晴斗。成り行きの縁だけど、これからよろしくな」
「……ああ」
九尾は短く相槌を打つだけで、手を取ってはくれなかった。ちょっとショックだった。誰にも懐かない猫みたいだ。
苦笑して、晴斗は九尾の前を歩き続けた。彼の心を開かせるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
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