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第16話
晴斗は苦笑いしつつ、言った。
「そんなに怒らないでくれよ。俺、モフモフの動物大好きなんだ」
「私は愛玩動物ではないっ!」
「いや、知ってるけどさ……九尾があまりに綺麗で可愛いから、つい……」
「そんなの理由になるか! とにかく、金輪際私には一切触れるなよ!」
「ええ? マジかよ……」
どうやら嫌われてしまったようだ。
近づくのを諦め、晴斗はテーブルに戻った。スマホでキツネの画像を次々スライドしながら、やれやれと思う。
――ちぇっ……もったいないことしたな……。
どうせだから仲良くなりたいと思ったのだが、なかなか上手くいかないものだ。こういう余計なちょっかいを出すから、「ウザい」とか「そんな人だとは思わなかった」とか言われてフラれてしまうのかもしれない。
まあ今更慣れっこだけどな……と思いつつ、晴斗はスマホを九尾に向けた。カメラを起動し、ピントを合わせて撮影ボタンを押す。パシャ、という小さな音がした。
そのまま何度もパシャパシャやっていたら、さすがの九尾も怪訝な視線を向けてきた。
「……? 何をしているんだ?」
「ああ……せっかくだから九尾の写真撮っておこうと思って」
「しゃしん……?」
「あ、見たい? 九尾、元が綺麗だから写真でもめっちゃ美人だぜ?」
写真を口実に九尾に近付く。スマホの画面を見せてあげたら、九尾は目を丸くした。
「な……なんだこれは? 何故私がこの中にいるんだ?」
「いや、これは九尾が中にいるわけじゃなくて、九尾の……ええと、絵? みたいなものでさ。綺麗だろ?」
「…………」
九尾はしばらく無言だったが、やがて落胆したようにポツリと呟いた。
「……全然綺麗じゃない……」
「えっ?」
「あなたに触られたせいで、すっかり毛並みが乱れてしまった。毛繕いしなくては」
そう言うやいなや、彼は自分の尻尾を引き寄せ、手櫛で毛並みを整え始めた。
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