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第15話

 晴斗はそっと九尾に視線を送った。彼は相変わらずぼんやりしたまま、物思いに耽っている。親しくしようという雰囲気は皆無だ。その点はキツネっぽいかもしれない。 「…………」  今更だけど、遠目で見てもすごく美人だと思う。悩ましげな横顔も色っぽいし、佇まいも清楚で品がある。白い狩衣もとてもよく似合っていた。  それに……。  ――やっぱいいよなあ、あの耳と尻尾……。  ふわふわでツヤツヤした銀色の毛並み。思わず抱き締めたくなるモフモフぶりだ。そう言えば、自分はもともとあの耳と尻尾に触りたくて水晶に近づいたんだった。触りたい。ああ、触りたい……。  ――ずっと壁を作られたままなのはよくないしな。  心の中でそう言い訳し、晴斗はそっと九尾に近づいた。そしてぼんやりしている九尾の背後から、垂れ下がっている耳を掴んだ。 「きゃん!」  裏返った悲鳴を上げて、九尾が驚いて飛び上がった。九本の尻尾がピンと逆立った。  あれ? と思って更に耳を揉み解したら、九尾はますます身体を硬くし、艶めいた声を漏らした。 「あっ、あっ、だめ……耳はだめ……っ」 「……!?」  何だこの反応。落ち着いた声色とは全く違う、色っぽい喘ぎ声だ。綺麗で品のよさそうな九尾がこんな反応を示すなんて完全に予想外である。  ――やべ、なんだこれ……。  面白い。癖になりそう。もっと弄りたい。もっと色っぽい姿を見たい……。 「九尾、こっちはどうなんだ?」 「っ!?」  尻尾にも手を伸ばそうとしたら、九尾がハッと息を呑んだ。 「気安く触るなっ!」  振り向きざま、手の甲で思いっきり頬を叩かれた。よろけている隙に乱暴に突き飛ばされ、部屋の反対側に逃げられてしまった。  叩かれたところをさすりながら、晴斗は九尾に近づこうとしたが、 「こっち来るな、ケダモノ!」  怒っているのか恥ずかしいのか、九尾の顔は今や真っ赤に染まっていた。耳と尻尾をピンと立てて、警戒心MAXでこちらを睨んでいる。

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