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第18話

「そうだ……人間にとって妖狐は敵。滅ぼすべき相手でしかない……」 「い……いや、それはさ……」 「それをあの男は……飄々とした顔で、私を……!」  九尾が手にしたブラシを投げつけた。それはテーブルの上のグラスに直撃し、グラスが砕けてお茶が周囲に飛び散った。  それでも気が収まらないのか、銀髪を振り乱しながら拳を固めて床を殴りつけた。 「私が何をしたというんだ!? 私は人間に呪詛をかけたことも、直接危害を加えたこともない! それなのに何故晴明は私を封印した!? 何故私を騙した!? 何故私を裏切ったんだ!」 「九尾……」 「私は……私はただ、あなたを……」 「っ……!」  心臓がズキンと痛んだ。九尾の叫びが鼓膜を震わせる度に、胸が押し潰されるように痛くてたまらなくなった。  ――九尾……そんなに晴明さんのこと慕ってたのか……。  妖狐と陰陽師という関係だが、きっと彼らの間にはそれを超えた絆があったのだ。少なくとも九尾はそう信じていた。他の人間とは親しくなくても、晴明のことだけは愛していた。  晴明本人に封印されるまでは……。 「九尾、ごめんな……もういいよ。余計なこと聞いて悪かった」  晴斗は九尾を抱き締めた。何故か自分も猛烈な悲しみを覚えてしまい、堰を切ったように涙があふれてきた。  愛していた人に裏切られ、独りぼっちで千年以上も封印されて、ようやく目覚めることができたと思ったら、安倍晴明はいなくなっていた。直接恨みをぶつけることも、裏切った理由を聞くこともできず、鬱屈した感情を抱えたまま、現代社会を彷徨うことしかできない。なんて悲しい。なんて悔しい……。 「……すまない、あなたには関係なかった。今のは忘れてくれると……」  やんわりと腕を解き、九尾が顔を上げた。  だが晴斗の顔を見た途端、彼は驚愕に目を見開いた。

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