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第19話
「……晴斗? 何故あなたが泣いているんだ?」
「あ、悪い……。九尾の気持ちを感じたら、なんか自然に涙が出て来て……」
晴斗は目元を拭いながら答えた。どうも自分は昔から感受性が強いらしく、よくもらい泣きをしてしまうのだ。そこもまた「イメージと違う」と言われる所以だった。
「ひどいな、晴明さん……。九尾は晴明さんのこと、本当に好きだったのに。九尾は何も悪いことしてないのに、なんでそんなことしたんだろう……」
「…………」
小さく溜息をついて、九尾が隣に寄り添ってきた。そして柔らかな尻尾でそっと晴斗を包み込んでくれた。
「あなたはおかしな人だ。他人のことでいちいち泣くなんて」
「ハハハ……そうかもな。こんなんだから、あっという間にフラれちゃうんだぜ」
「……そうなのか?」
「なんというか……一緒にいるとガッカリするらしいんだ。見た目はまあまあなのに、余計なことしてウザがられたり、こうやって急に感情が高ぶることもあったりしてさ……。我ながら情けないなと思うよ」
「…………」
「ていうか、俺が泣いてどうするんだか。俺が九尾を慰めなくちゃいけないのに……ホントごめんな」
「……いや」
九尾は、尻尾の先で晴斗の頬を撫でてくれた。涙で濡れていた肌は、あっという間に元の状態に戻り、涙もピタリと止まってしまった。
「あ、あれ? なんで?」
「『感情を鎮める術』を少し使ってみた。私の術なんて、晴明に比べれば全然たいしたことないが」
「いや、十分すごいよ。ありがとうな。……あとごめん、せっかく尻尾ブラッシングしたのに、また乱れちゃった」
「……いいんだ。代わりに泣いてくれて、少し気が紛れた」
晴斗は九尾を見た。紫色の瞳と目があった。その目には自分が映っていたが、特に潤んでいるわけではなかった。
「九尾は泣いたことないのか?」
「……え?」
「悲しい時は泣いてもいいと思うぞ? それで少しは気分も落ち着くし……下手に我慢するよりずっと心が楽になる。俺は九尾が大泣きしたって全然気にしないけどな」
そう言ったら、九尾はふいと目を逸らした。そしてごまかすように呟いた。
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