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第27話

「はあ……」  九尾は「今時のかき氷」の迫力に度肝を抜かされたようだが、恐る恐るスプーンを握り、先端を少しつついて少量を口に運んだ。途端、紫色の目が一際大きくなった。 「美味しい……」 「だろ? やっぱり夏はかき氷だよなー! 口に合ったみたいでよかった」 「削り氷とは全然違う……。というか、昔はこんな気楽に氷なんて食べられなかった」 「そりゃそうだろうな。平安時代には冷凍庫なんてないし」 「なんというか……すごい時代だな。夏なのに室内は涼しいし、氷も簡単に手に入るし、着る物や食べ物に困ることもない。刀や弓を持って歩いている人だっていないし……本当に平和な時代なんだな……」  しみじみと呟くので、晴斗はにこりと微笑んだ。 「そうだよ。だから九尾も、もっとのんびり生活していいと思うぜ。この時代の連中は妖怪を信じてないヤツがほとんどだから、耳と尻尾を引っ込めて生活していれば、九尾が妖狐だってバレることはまずない。九尾に何かしようってヤツはいないはずさ」 「…………」 「それに……どんな時代だろうと、生きているからには楽しい方がいいだろ? 美味しいものを食べたり、かっこいい服を着たり、街に遊びに出かけたりさ。いろいろ思うところはあるかもしれないけど、こうやって楽しむことも忘れないで欲しいね」 「晴斗……」  九尾はこちらを真っ直ぐ見つめ、やがて視線をかき氷に落とした。そしてやや悲しげに微笑み、こう呟いた。 「……そうだな。晴明もよくそんなことを言っていた」 「晴明さんも?」 「ああ……どうせなら楽しんで生きろと。楽しめる時に楽しんでおかないと、きっと後悔するから……と」 「そうか……」  九尾の手が止まってしまったので、晴斗はわざと音を立ててかき氷を崩した。しんみりした空気を変えるように、明るく言った。 「まあとにかく、九尾は遠慮しなくていいからな。やってみたいことがあったらなんでも言ってくれ」 「……わかった」  小さく頷き、九尾は再びかき氷を食べ始めた。  甘いかき氷が少しでも彼の癒しになればいいな、と晴斗は密かに願った。

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