32 / 134

第32話

「最低っ! 晴斗なんか大嫌いだ!」 「えっ、ちょ……待ってくれよ! 今のはただの悪戯で……」 「知るか! もう絶対晴斗とは風呂に入らないっ!」  怒って湯船から出ようとするので、晴斗は腕を掴んで引き戻した。 「待てってば! 九尾、そんなに怒らないでくれよ」 「嫌だっ、放せっ!」 「悪かったよ、こんなに快感に弱いなんて思わなかったんだ。ちょっとした出来心だから、許してくれ。な?」 「何が出来心だ、このケダモノ!」 「そんな言い方すんなよ……。そりゃ勝手に耳触ったのは悪かったけど、耳だけでこんなに反応したのは九尾なんだぞ? お互い様じゃねぇの?」 「そっ……!」 「それに……」  背中から強く抱き締め、耳元で囁いた。 「さっきの九尾、めっちゃ可愛くて色っぽかった。ずっと見ていたいくらいだった。ああいうお前も、俺は好きだな」 「っ……」 「だからさ……機嫌直してくれよ。こんなことで不仲になるの、俺は御免だぞ」 「…………」  小さく息を吐き、九尾が力を抜いた。どうやら自分にも少しは非があったと認めたらしい。事情はどうあれ反応したのは自分なのだから、晴斗ばかり責められないと反省したようだ。 「……今度許可なくこういうことしたら、しばらく口利いてやらないからな」  振り向かず悔しそうに呟くので、晴斗は軽く笑いながら答えた。 「ああ、わかったよ。肝に銘じておく」  とりあえず許してもらえたみたいで、ホッと一安心だ。  その後二人で十分に温まり、汚れたお湯を捨てて風呂から出た。

ともだちにシェアしよう!