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第36話
そして小さく嗚咽を漏らしながら、耳元でこう呟いた。
「私はただ……晴明とずっと一緒にいられれば、それでよかったんだ……」
「…………」
「ずっと独りぼっちだった私に、初めて優しくしてくれた人だったから……。私の銀髪を綺麗だって褒めてくれて、妖狐であっても差別せずに接してくれて……。たったそれだけのことだけど、私にとっては……それが、本当に……」
九尾の銀髪を優しく撫でながら、相槌だけ打つ。余計なことは言わずに、ただ話を聞いてやる。
気持ちを吐露しているうちに感情が高ぶってきたのか、九尾は晴斗にしがみついて大粒の涙をこぼし始めた。
「好きだったのに……本当に愛していたのに……! どうしてこんな仕打ちを……」
「…………」
「ひどい、晴明……ひどすぎる……」
子供のように泣きじゃくっている九尾。心に秘めていた想いが相当強かったらしく、あとからあとから涙があふれてくる。今までよく我慢していたものだと、逆に感心してしまうほどだった。
晴斗は少し身体を離し、九尾の顔を両手で挟んだ。頬は涙で濡れ、目元も真っ赤に染まっている。もとが綺麗だから泣き顔もそれなりに可愛かったけど、やはりこういう悲しい顔はこれっきりにして欲しいなと思った。嵐の後には青空が広がるように、思いっきり泣きはらした後は、明るい笑顔を見せて欲しい。きっとその方が九尾には似合う。
「っ……んっ……」
半開きの唇に、そっとキスを落とした。ひどく悲しい時は、こういうスキンシップもいくばくかの慰めになる。後で怒られるかもしれないけど、九尾がずっと悲しいままでいるより余程いいと思った。
ところが……。
「!? んっ、んん……」
驚くことに、唇を放した次の瞬間、九尾の方から再びキスを見舞ってきた。しっかりと首に抱きついた上で舌を絡ませ、濡れた粘膜の音を立てて、こぼれそうな唾液を吸い上げる。こんな悲しい味のキスは、晴斗にとっても初めてだった。
「九尾……?」
唇を離し、至近距離から彼を見た。目は相変わらず真っ赤だったが、恥ずかしがる素振りはなかった。ギュッとシャツを握り締めたまま、すがりつくようにこちらを見つめている。その目はどこか誘っているようにも見えた。
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