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第44話

「な、な……何を……」 「俺は忘れたくないな、昨夜のこと」 「えっ……?」 「そりゃあ、いきなりあんな展開になったから最初はびっくりしたけどな。でも、いろいろ我慢できなくなることは誰にだってあるし、そこまで迷惑だとも思わなかった。だから俺は一切忘れるつもりはないし、昨夜のことを否定するつもりも毛頭ないよ」 「えっ……でも……」 「それに……やっぱり九尾は、晴明さんのこと忘れちゃダメだと思うぞ」 「え?」  そう言ったら、九尾は驚愕に目を見開いた。晴斗は更に続けた。 「いくら辛いからって、好きな人と別れる度にその人のこと忘れてたら、九尾の心には誰も残らなくなっちゃうだろ。時間が経てば忘れたくないことも忘れちゃったりするんだから、せめてそれまでは心の片隅にでも残しておいてあげようぜ? 無理矢理忘れようとするよりその方がいいし、俺もそっちの方が嬉しいからさ」 「嬉しい……?」 「ああ。だってもし俺が晴明さんだったら、俺のこと忘れて欲しくないし。心の片隅でもいいから覚えていて欲しいから」  九尾がハッ……と息を呑む。晴斗は微笑みながら、九尾の銀髪を撫でた。 「時々ちょっと思い出して神社に参拝するくらいでいいんだ。墓参りと一緒さ。ずーっと引きずっているのは辛いから、悲しみを洗い流したら次に進もうぜ? 少しずつでも前を向いていれば……心の痛みもそのうち和らいでくるはずさ……多分な」 「…………」  九尾はしばらく何も言わなかった。太陽でも見るかのように、目を細めて晴斗を見上げた。

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