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第53話(九尾目線)
晴斗が見えなくなったところで、ようやく九尾はベランダから室内に戻った。すぐそこのコンビニに行く以外で置いてけぼりになるのは初めてだったから、少し不安になってしまった。
「九尾ちゃん、随分あの人間に懐いてるみたいだね」
三尾がやや呆れた顔をこちらに向けてくる。
「あまり人間を信用しない方がいいよ。ロクな目に遭わないから」
「そんな……晴斗は大丈夫だよ」
「そうやって心を許した挙句、あの陰陽師にひどい目に遭わされたんじゃないの?」
「っ……!」
心の傷を抉られて、九尾は言葉に詰まった。あの時のことはほとんど誰にも――まだ晴斗にも詳しく話していないのに、何故三尾が知っているのだろう。
「当時、僕は田舎の山里暮らしだったけどさ……都であんな騒ぎになってたら、嫌でも噂が飛んでくるよ。九尾ちゃんが都に呪詛をかけたってことも、それで人間たちに追われたってことも、挙句、安倍晴明に封印されたことも、全部ね」
「……それは誤解だ。私は呪詛なんてかけてない」
「わかってるよ。九尾ちゃん、簡単な呪詛しか使えないもんね。都全体を呪えるような術を使えるのは、相当力の強い妖怪だけだ。多分、僕にも無理だと思う。でもね、人間にとってはそんなの関係ないんだよ。妖怪はみんな同じ。呪詛をかけていようがかけていまいが、妖怪は全員排除する敵でしかないんだ」
「そんな……」
「九尾ちゃん」
三尾はずいっと顔を寄せ、唐突にこんなことを言い出した。
「僕と一緒に山で暮らさない?」
「えっ……?」
「平安時代に比べればだいぶ住処は減っちゃったけど、それでも快適な山はたくさんある。人間と関わって生きるより、ずっといいと思うよ?」
「それは……」
なんと答えようか迷っていると、三尾は更にたたみかけてきた。
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