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第54話(九尾目線)

「九尾ちゃん、『第二次世界大戦』って知ってる?」 「え……?」 「『関ケ原の戦い』は? 『応仁の乱』は? 『壇ノ浦の戦い』は?」 「いや、あの……それは何の話を……?」 「これはね、全部人間が起こした争いの歴史。九尾ちゃんは封印されてたから知らないだろうけど、他にも数えきれないくらいの争いがあったよ。今挙げたのは、ほんの一部だけ」 「…………」 「何が言いたいかっていうとさ……人間って、そういうことしかしない生き物だよってこと。裏切ったり争ったり……何かを壊したりね。あいつらは、仲間同士ですら平気で殺し合ったりできる種族なんだ。それ以外の生き物を傷つけることなんて何とも思ってない。住処を奪われたり、食用にされたり……ただの趣味として狩られた連中もたくさんいた。そういう仲間を、僕はたくさん見て来た……本当に、嫌になるほど見て来た……」 「三尾……」  九尾は、封印されていた千年間に何が起きたか知らない。けれど三尾の言うことは、きっと間違っていないのだと思った。それは彼の黒い目を見れば明らかだった。だから三尾は人間と関わりたがらない。  その気になればいくらでも人間の暮らしに溶け込めるはずなのに、未だに山の中で暮らしているのは……人間そのものに嫌悪を感じているからだろう。 「ねえ、九尾ちゃん。悪いことは言わないからさ……もう人間に関わるのはやめなよ。また裏切られて傷つくの、嫌でしょ?」 「そんな……晴斗は私を裏切ったりなんて……」 「わかんないじゃん。今は親切にしてくれてても、人間なんてあっという間に心変わりしちゃうんだからさ。だいたい考えてもみなよ。寿命がない僕らと違って、アイツらは百年足らずで死んじゃうんだよ? それしか寿命がないのに、ずっと妖怪の面倒を見て生きていけるはずないじゃない。だからあの陰陽師も、きみのこと見捨てたんじゃないの?」 「っ……!」  痛いところを突かれて、九尾は眉尻を下げた。ズキズキと心臓が痛み、思わず胸を押さえた。

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