59 / 134
第59話
「この際だからハッキリ言っておくけど、俺は九尾のこと好きだよ」
「え……」
「だからずっと一緒にいたいし、出て行って欲しくなんかない。九尾がいてくれるから、俺は毎日楽しく過ごせるんだ。可愛い子がいない男の一人暮らしなんて、地味だしつまんないぜ?」
「…………」
「それに……俺は晴明さんとは違うからさ」
そう言ったら、九尾は初めて顔を上げてこちらを見た。
「晴明さんは立派な陰陽師だったから、いろいろ立場ってものがあったんだろ? 家族とか地位とか……守らなきゃいけないものもたくさんあったんだよ。でも俺はそうじゃない。俺はただの大学生だし、守るべき家族もいない。実家の両親は京都住まいだからな。だから、何かを守るために九尾を切り捨てることは絶対しないよ」
「晴斗……」
「晴明さんに裏切られて、タヌキにも変なこと言われたから、ちょっと疑心暗鬼になってるんだろ? 大丈夫だって、俺が九尾を裏切ることはない。むしろウザいくらい束縛して嫌われるかもしれねぇわ。考えてみりゃ俺、毎回そのパターンでフラれてるんだった」
ハッハッハ、とあえて明るく笑い飛ばしたら、九尾はやっと少しだけ笑ってくれた。
「……そうだな。晴斗は私に嘘ついたことはなかった」
「だろ? だいたい本当に迷惑だったら、わざわざ東京まで連れて来ないし。九尾のことが好きだから、あれこれ世話を焼いてるんだよ。だからお前は変なことは気にせず、ここにいていいんだ」
真っ直ぐに九尾を見つめ、力強く断言する。
すると九尾は眩しそうに目を細め、ふわりと微笑んだ。
「……ありがとう、晴斗。本当に優しいな、あなたは」
「優しいというか……まあ、好きな相手には優しくしたくなるもんだからな。ぶっちゃけ、下心もあるしさ」
「……下心?」
「いや、だからこういう……」
ともだちにシェアしよう!