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第60話
軽い気持ちで九尾の頬を挟み、そっと唇にキスしてやる。
一瞬触れるだけの軽いものだったのに、何故か九尾は驚いて目を見開いた。ビクッと身体を強張らせ、晴斗を突き飛ばして来る。
「なっ……何するんだ、このケダモノ!」
「ええ!? 今のNGだったのか? でも俺たち、キスするのこれが初めてじゃないだろ?」
「そっ……! そ、それとこれとは話が別だ!」
「えええ!? 別なのかよ! 九尾の基準が時々わかんねぇ!」
「わからなくて結構だ! 今度いきなり『きす』したら、『三日間鼻水が止まらなくなる呪い』をかけてやるからな!」
「めっちゃ地味な呪いだな、オイ! ていうか、なんで今のがダメなんだよ? 俺、お前が大泣きしてる時に慰めてやったよな?」
「あっ……あれは、その……!」
みるみる顔を赤らめ、恥ずかしげに目を覆う九尾。キツネの耳がしおしおと萎れ、ほんのり紅潮していた。
――ああ……マジで可愛いなあ……。
鼻血を噴きそうになるのをなんとか堪え、晴斗は九尾を正面から抱き締めた。
「な、何を……!?」
「いやもう、お前ホントに可愛いよ。こんな可愛いキツネ、誰が手放すかって。九尾、一生俺の家にいていいからな?」
「きゃん! ちょ、あっ……やめて……! 耳は弄らないで……!」
抱き締めたどさくさで耳を食んでやったら、案の定九尾は艶っぽい声で喘ぎ始めた。こちらを引き剥がそうと頑張っているものの、弱点を攻められているせいか腕に力が入っていない。
もっといじめてやりたかったが、風呂で同じことをしてものすごく怒られたので、今回はこのくらいでやめておく。
晴斗は九尾を解放すると、皿に盛ったいなり寿司を差し出した。
「ほら、一緒に食べようぜ? 具が入ってないシンプルなヤツ買ってきたんだ。九尾、これ好きだったよな?」
「…………」
恥ずかしいのか悔しいのか、九尾は唇を尖らせていなり寿司をひとつ摘まんだ。そしてくるりと背を向けると、黙々とそれを食べ始めた。
晴斗も笑みをこぼしながら、一緒にいなり寿司を味わった。いつもより甘く美味しく感じた。
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