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第61話
深夜。何か物音が聞こえた気がして、晴斗は目を覚ました。
隣で寝ていた九尾は、尻尾を丸めたまま熟睡していた。意外と九尾は一度眠ったらなかなか起きないのだ。安心しきっているのかもしれない。
「……!」
何かが動く気配を感じる。ベランダからだ。
晴斗は意を決してベランダのカーテンを開けた。一応防犯対策として、片手に金属バットを握っておく。
するとそこには、見覚えのある少年がいた。
「あっ、お前は昼間のタヌキ!」
「あれ、よく気付いたね。人間って一度寝たらなかなか起きないのに」
逃げる様子もないので、晴斗は仕方なくベランダに出た。部屋で騒いで九尾を起こしてしまったら悪いと思ったのだ。
「……で? お前、何しに来たんだよ」
「九尾ちゃんの寝顔を拝みに来たの。九尾ちゃん、可愛いよね。見た目も性格も」
「だからいろいろちょっかいを出して来たのか? あまり九尾に変なこと吹き込むなよ」
「変なことは吹き込んでないよ。事実を教えてあげただけ」
「『人間に関わるな』ってか? それのどこが事実なんだよ。ただの偏見じゃねぇか」
「これまでの歴史を千年分見て、それで僕が得た結論だよ」
そう言われて、思わず言葉に詰まった。そうか……このタヌキは実際に、平安時代から現代までの歴史を見てきているんだ。自分の目で、全て。
「というかさ、人間ってなんであんなに争いが好きなわけ? 平和な時代なんてほとんどなくて、数年経ったらまたすぐに戦だ。なんなの、あれ? 戦うのがそんなに楽しいの?」
「……そういうわけじゃねぇよ。誰だって平和に生きたいに決まってる」
「ホントにそうかな。その割には、今も昔もやってること変わらないよね」
「そんなの俺に言われても困るんだけど。ていうか、こんな夜遅くにそんな説教めいた話なんて聞きたくねぇよ」
「説教してるつもりはないよ。百年も生きられないちっぽけな生き物に、こんなこと言ったって無駄だもんね」
見た目にそぐわない冷めた口調で、三尾は言った。
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