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第66話
長い夏休みが終わり、再び大学が始まった。
必須単位を落とすと留年してしまうので、晴斗はなるべくサボらずに授業に出るつもりだったのだが、その間、九尾を放置してしまうのは少し気が引けた。
「九尾、本当に一人で大丈夫か? なんなら、教室の一番後ろの席に座っていればバレないと思うぞ?」
「大丈夫だ。講義は難しくてわからないし、何もしないでずっと座っているのも退屈だから」
「そりゃそうだけどさ。じゃあお前、どこで待ってるんだよ?」
「それは……」
「心配無用! あんたが授業受けてる間、九尾ちゃんは僕と一緒に遊んでるから。ねー、九尾ちゃん?」
突然茂みからタヌキが飛び出してきて、尻尾をぶんぶん振り回して九尾に絡み始めた。
「出たな、化けダヌキ! ていうか、事あるごとに登場すんな! 鬱陶しいだろうが!」
「あんたのことなんて知らないし~。遅刻しちゃうから、さっさと授業行けば~?」
九尾の腕に収まりながら、勝ち誇ったようにアカンベーをしてくる三尾。
「ぐぬぬぬ……」
――こいつ……ホントにぶん投げたい……!
思わず掴みかかりそうになったが、こんな憎たらしいヤツでも九尾の友達だ。あまり下手なことはできない。それに、また噛みつかれるのもシャクだった。
九尾は苦笑しながら、尻尾を振っている三尾を撫でた。
「晴斗、かまわず授業に行ってくれ。私は三尾と適当にぶらぶらしているから」
「ああもう、わかったよ! おいタヌキ、くれぐれも九尾に変なことすんなよ!」
そう念を押し、晴斗はやむを得ず教室に向かった。
……もっとも、九尾と化けダヌキのことが気になって、あまり集中できなかったのだが。
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