67 / 134
第67話
ある日、晴斗は九尾を連れて渋谷周辺を訪れた。普段は滅多に足を運ばないような華やかな場所だが、最先端のカルチャーを九尾に教えるにはぴったりだと思った。
「どうよ、九尾? こういう『ザ・都会!』ってところもたまにはいいだろ?」
「そうだな……。でもあまりに人が多くて目が回りそうだ」
「渋谷のハチ公前って言ったら、いつもこんな感じだぞ」
「ハチ公……ってあの銅像か? 何故あんな犬の前に人が集っているんだ?」
「待ち合わせ場所としてわかりやすいんだろうな。でも、人が集うって意味では九尾も負けてないぜ?」
「え?」
「だって、どこを歩いてもすぐ人の注目を集められるだろ? 九尾、美人だからさ」
晴斗も外見は悪くないはずなのだが、九尾の美しさは別格らしかった。どこにいてもかなり人目を引くようで、老若男女問わず、すれ違った人たちが必ず一度は振り返っている。
「本当に綺麗だよなあ」
背が高くスタイルもいい上、顔もノーブルに整っている。銀髪のセミロングも日光を受けてキラキラ光り、大勢の中で一人だけスポットライトを浴びているように見えた。スターのオーラとでもいうのか、とにかく九尾は人混みの中でもよく目立つ。
すると、九尾は照れたように微笑んだ。
「ありがとう」
最近晴斗が「綺麗だ」と褒めると、こんな風にはにかむことが多くなった。洋服等を買いに行った時に店員から「綺麗ですね」と言われても「そうですか」と普通に返すだけなのだが、晴斗が褒めた時だけは反応が少し違うのだ。
――脈アリって考えてもいいんだよな、これは?
晴斗は既に九尾に「好きだ」と告白しているけれど、九尾は未だにハッキリした答えを口にしていない。まだ新しい恋に進む気にならないのかもしれないが、このまま親しくしていればそのうちいい答えが聞けるのではないかと思った。
今生きている人間の中で、九尾と一番親しくしているのは自分なのだから。
ともだちにシェアしよう!