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第68話

 こっそりと優越感に浸りつつ、晴斗は早速渋谷を歩き回ってみた。  特に目的を定めていたわけではないので、「興味のある場所を見つけたら教えてくれ」と九尾に言って、適当にブラブラすることにした。 「あの、ちょっとすみません」  しばらく散歩していたら、横から声をかけられた。見れば、書類か何かを脇に抱えた女性が熱心にこちら……いや、正確には九尾を凝視していた。その後ろには、高級そうなカメラを抱えた男性も控えている。  女性は九尾に向かって、言った。 「今お時間よろしいですか? もしよろしければ少しお話できないでしょうか?」 「え……?」  九尾が怪訝な顔をし始めたので、晴斗は慌てて間に割って入った。 「すみません。どういったご用件でしょうか?」 「あ、失礼しました。私、こういう者なんですが」  と言って、女性は懐から名刺を取り出した。そこには『株式会社長山プロダクション』と書かれていた。  ――ん? 長山プロって……。  もしやと思っていたら、女性は説明を加えた。 「私、芸能事務所で働いている者なのですが、そちらの方がとても魅力的だったので……。もし芸能界に興味がありましたら、少しばかりお話させていただこうかと思いまして」 「うわ、やっぱりか……!」  晴斗は目を丸くした。  長山プロダクションと言ったら、芸能界では大手にあたる事務所である。売れっ子のモデルやタレント、歌手、役者をたくさん抱えており、テレビをつければ大抵、そこに所属している芸能人を拝むことができる。 「九尾、すごいぞ! 芸能事務所にスカウトされてる……って」  顔を上げたら、九尾は我関せずといった様子でスタスタと先に歩いてしまっていた。どうやら、自分が呼び止められたとは思っていないようだった。

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