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第69話
「おい九尾、どこ行くんだよ! 待てって!」
慌てて九尾を呼びに行こうとしたら、スカウトの女性が言った。
「あの……今お忙しいようでしたら、お時間がある時にご連絡くださっても……」
「は、はい、すみません。それじゃ!」
晴斗は急いで九尾に追いつき、軽く注意した。
「九尾、勝手に先に行くなよ。お前がスカウトされてたんだから」
「すかうと? よくわからないが、晴斗と話をしていたから、邪魔しない方がいいかと思って……」
「……いや、だから本当は九尾と話をしたがってたんだって」
奥ゆかしくて控えめなのは彼のいいところだが、やや天然なのは困りものだ。
仕方なく、晴斗は先程もらった名刺を見せ、簡単に経緯を説明してあげた。
「で、どうする? 九尾、やってみるつもりないか?」
「何を?」
「だから芸能界だよ。誰でもできることじゃないし、少し経験してみるのも悪くないと思うぜ?」
「晴斗……」
「何だよ? あまりピンと来ていなさそうな顔してるな」
「なんというか……そもそも芸能界というのがよくわからないんだが」
あ、そういうことか。
「あー……そうか、そうだよな。うーん……なんて説明すればいいかな……」
一言で説明するのはかなり難しい。九尾はそこまで横文字に強くないから、テレビだのメディアだのと言っても理解できないと思う。具体的に何かコレというものを見せられればいいのだが……。
「あっ……」
そう思った時、スクランブル交差点から見える巨大スクリーンが目に入ってきた。
「あれだ! あんな風に活躍する世界だよ」
晴斗は、九尾の背後にあるスクリーンを指差した。そこには、派手な衣装で歌いながら踊っているアーティストが映っていた。
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