69 / 134

第69話

「おい九尾、どこ行くんだよ! 待てって!」  慌てて九尾を呼びに行こうとしたら、スカウトの女性が言った。 「あの……今お忙しいようでしたら、お時間がある時にご連絡くださっても……」 「は、はい、すみません。それじゃ!」  晴斗は急いで九尾に追いつき、軽く注意した。 「九尾、勝手に先に行くなよ。お前がスカウトされてたんだから」 「すかうと? よくわからないが、晴斗と話をしていたから、邪魔しない方がいいかと思って……」 「……いや、だから本当は九尾と話をしたがってたんだって」  奥ゆかしくて控えめなのは彼のいいところだが、やや天然なのは困りものだ。  仕方なく、晴斗は先程もらった名刺を見せ、簡単に経緯を説明してあげた。 「で、どうする? 九尾、やってみるつもりないか?」 「何を?」 「だから芸能界だよ。誰でもできることじゃないし、少し経験してみるのも悪くないと思うぜ?」 「晴斗……」 「何だよ? あまりピンと来ていなさそうな顔してるな」 「なんというか……そもそも芸能界というのがよくわからないんだが」  あ、そういうことか。 「あー……そうか、そうだよな。うーん……なんて説明すればいいかな……」  一言で説明するのはかなり難しい。九尾はそこまで横文字に強くないから、テレビだのメディアだのと言っても理解できないと思う。具体的に何かコレというものを見せられればいいのだが……。 「あっ……」  そう思った時、スクランブル交差点から見える巨大スクリーンが目に入ってきた。 「あれだ! あんな風に活躍する世界だよ」  晴斗は、九尾の背後にあるスクリーンを指差した。そこには、派手な衣装で歌いながら踊っているアーティストが映っていた。

ともだちにシェアしよう!