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第70話
九尾は少し首を捻ってそれを見ていたが、眉間に少しシワを寄せて言った。
「……ああいうことをやるのか? 私にできるとは思えないのだが」
「いや、あれはアーティストの場合だな。九尾の場合はまずモデルからじゃね?」
「もでる?」
「流行りの服を着て写真撮ったり、大きな会場で洋服を着て歩いたりするんだよ」
「動く着せ替え人形のことか。それはあまり気が進まないな……」
「……そういう表現をされると身も蓋もないけどな。でも、バイト感覚でやってみるってのもアリじゃねぇの?」
「『ばいと』か……。確かに晴斗には世話になってばかりだし、少し働いてみるのもやぶさかではないが……」
曖昧な返事をする九尾。働く意欲はともかく、芸能界への興味はないようだった。
――はあ……もったいねぇな。
これだけ綺麗でオーラがあるなら、すぐ売れっ子になれそうなのに。本人が興味を持てないなら仕方ないけど実にもったいない……。
「あ……」
不意に、スクリーンを眺めていた九尾が食い入るように凝視し始めた。
アーティストのコマーシャルが終わり、次に映ったのは現在人気沸騰中の女性モデルだった。確か「たまお」と言ったか。モデル業だけでなく、最近は女優として活躍しており、CMにも多数出演している美女である。気まぐれな悪女キャラがウケていて、特に男性に大人気だとか。
すると、九尾が突然こんなことを言い出した。
「晴斗、あいつに会うにはどうすればいい?」
「……は?」
「あいつに会って話をしたいんだ。直接面会する方法はないか?」
「いや、面会と言われてもな……」
九尾の真剣な表情に、晴斗はやや戸惑いを覚えた。
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