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第74話
数日後、九尾は晴れて芸能界デビューすることになった。スカウトしてきた女性も連絡をし返したらノリノリで話をしてくれて、「彼の気が変わる前に」とさっさとスケジュールを組んでしまった。
新人だから、最初は小さな仕事が続くのだろうと思っていたのだが、妖艶でミステリアス、かつちょっと古風で天然な九尾のキャラクターが「今時の若者には珍しい」と評判になったらしく、一ヶ月も経たないうちにオファーが倍増することになった。
「すげぇな、九尾。こんなに早く仕事が増えるなんて思わなかったぞ。やっぱり素材が抜群なんだな」
「……ありがとう」
九尾本人は、モデルの仕事そのものにはやる気も思い入れもないようだったが、「玉藻前に会う」という目的があるせいか、現場でどんな注文をつけられても素直に応じていた。
とはいえ、最初は戸惑うことも多くて、
「なんだ、この服は。何故こんなモコモコの服を着なければならないんだ? まだ夏なのに暑いじゃないか」
「季節の先取りだよ。今撮っている写真は秋くらいに世に出回ることになるんだ。でも秋に秋っぽい服を特集しても遅いだろ? だから冬服になっちゃうわけだ」
「……そうなのか。難儀な仕事だな……」
「ああ……。見た目は華やかだけど意外と肉体労働だからな、モデルは。もし疲れたらいつでも言ってくれよ? なんなら俺が毛繕いでも……」
「……それは遠慮しておく」
売れっ子になるにつれ、九尾の周りは関係スタッフが増え、一緒に仕事をする芸能人も増えていった。晴斗の知らない人たちに囲まれて仕事する機会も多くなってきた。
――おおお……!
とある現場で、黒のデザイナースーツに身を包んだ九尾を見て、晴斗は思わず感嘆の溜息を漏らした。
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