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第80話
「確かにそうだな……。ありがとう、三尾。彼女に会う時は気を付けるよ」
九尾は小さく口を開けてスイカを一口食べた。
「でも、玉藻前からあの時のことを聞き出せたら、『もでる』は辞めるつもりだ。晴斗にも余計な手間をかけてしまっているし……そもそも私は大勢の人に注目される仕事は向いていないと思う」
「そうか? 九尾はよくやってると思うぞ? スケジュール管理だって、そんな大した作業じゃないしな」
と、晴斗はスマホを弄りながら言った。
「まあ、モデルを辞める・辞めないはともかく、玉藻前に会えたらもう一度『自分が何をしたいか』をじっくり考えてみるといいかもな。せっかく今を生きてるんだから、九尾は九尾のやりたいことをやって……」
その時、一通のメールがスマホに入ってきた。開いてみたら事務所からの連絡だった。またスケジュールの変更かな……と思ったのだが、内容を読んだ瞬間、晴斗は歓喜の叫び声を上げた。
「おい九尾! やったぞ!」
「!? び、びっくりした……。一体どうしたんだ?」
「事務所から仕事の連絡だ。あの玉藻前と共演できることになったらしいぞ!」
「……えっ? 本当か?」
「ああ、バラエティー番組のゲストで呼ばれるんだと。いつものモデル業じゃないけど、オファー来たから是非出演してくれってよ」
九尾はしばらくきょとんとしていたが、やがてその意味を理解すると、ぱあっと顔を輝かせた。
「そうか……! じゃあ、その仕事をすれば玉藻前に会えるんだな?」
「そうだな。よかったじゃないか、九尾。おめでとう」
「ありがとう、全部晴斗のおかげだ。本当に感謝している」
「いやいや、九尾が頑張った結果だろ。俺はちょっとそれをサポートしただけだ」
「でも、晴斗がいなかったらここまで頑張れなかったかもしれない。……あなたに会えて、本当によかった」
そう言われて、思わずキュンとしてしまった。今すぐこの場でキスして押し倒したい衝動に駆られた。
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