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第79話

「それにしても九尾ちゃん……今の仕事、いつまで続けるつもりなの?」 「えっ?」 「玉藻前に会うのはいいけどさ……わざわざ人間に混じって働く必要ある? 妖怪同士だったら、お互いの気配でなんとなく居場所わかるじゃん?」 「いや、それが……。玉藻前は気配を隠すのも上手いみたいで、何度探ろうとしてもわからなくなってしまうんだ。もともと私が、気配を辿るのが上手くないというのもあるだろうが」 「ふーん……? まあ確かにアイツは、当時から妖怪の間では別格って言われてたからね。あれだけ凶々しい気配を放っていれば普通は居場所を辿れるはずなんだけど、その気配ですら隠せるだけのテクニックを持ってるってことかな……」  いまいちピンと来ない話だったが、玉藻前が相当力の強い妖狐だということはわかった。  三尾は更に言った。 「でも九尾ちゃん……本当、気を付けた方がいいよ。玉藻前は普通の妖怪と感覚が違う。呪詛返しくらいは身につけておいた方がいいと思うね」 「……呪詛返し? だが、妖怪は妖怪に呪詛などかけないだろう?」 「だから、そこの感覚が違うの。普通の妖怪ならやらないことでも、アイツは平気でやっちゃうんだよ。だいたい、ああやって積極的に人間に関わってること自体がおかしいでしょ。芸能人なんて、妖怪が一番やりたがらない職業だし」 「それは……でも、私だって今は『もでる』をやっているし」 「九尾ちゃんは『玉藻前に会う』っていう目的のためにやってるからいいの。でも、あの女はそうじゃない。常に不特定多数の人間と関わって生きてる。僕からすれば、ものすごく不可思議だ」  タヌキにしては珍しく難しい顔をしているので、晴斗は口を挟んでやった。 「妖怪の中にも人間が好きな妖怪はいるだろ。お前が人間不信だから、不可思議だって思うんじゃないか?」 「確かに人間に友好的な妖怪もいるよ。でも、少なくとも玉藻前はそういうタイプじゃない。もし本当に人間が好きなら、鳥羽上皇の寵姫時代に、他の姫たちに呪詛をかけて排除するはずがないからね」  ……言われてみれば、その通りだ。

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