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第78話

 三尾は勝手知ったる動作でキッチンから包丁を取り出し、小玉スイカを豪快にザクザク切り分けた。 「はい、九尾ちゃん! お疲れだから一番大きいのをどうぞ」 「あ、ありがとう……」 「じゃ、いただきまーす!」  ちゃっかり九尾の隣に座り、スイカに齧りついている三尾。  九尾は曖昧な顔でスイカを見つめ、次いで意を決したように声をかけて来た。 「晴斗、せっかくだから一緒に食べないか?」 「え……? あー……」  晴斗が言い淀んでいると、三尾が小馬鹿にしたように口を挟んできた。 「あんなヤツほっときゃいいよ。二十歳を超えてるなら、人間は立派な大人でしょ? 何を怒ってるのか知らないけど、ガキじゃないんだから自分の機嫌は自分で直さないとね」  ……地味にグサリと突き刺さる言葉だ。  ――ちっ……タヌキのくせに正論を吐きやがる……。  勝手にヤキモチを焼いて、勝手に怒ったのは晴斗だ。九尾に言うほどの落ち度はない。一生九尾を守っていくと決めたのなら、もっと寛容にならなくては。  晴斗は何度か深呼吸をし、気分を落ち着かせるとスイカ片手に九尾の隣に腰を下ろした。 「九尾、さっきは悪かった。いなり寿司専門店はまた今度行こうな」 「あ、ああ……。でも晴斗、本当に何を怒っていたんだ? 私は何か気に障るようなことをしてしまったのか?」 「いや、九尾のせいじゃないよ。全部俺の性格の問題だ」 「……そうなのか?」 「本人がそう言ってるんだから、そうなんじゃないの? 九尾ちゃん、あまり気にしない方がいいよ。人間の顔色を窺って生きるなんて損だからね」  反対側にいる三尾が、スイカを齧りながら言う。

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