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第77話
「とうっ!」
その時、不意に窓ガラスを破って例のタヌキ少年が部屋に侵入してきた。
「九尾ちゃん、おかえりぃぃ! お仕事お疲れさま~! スイカ冷やしといたから、一緒に食べよ~!」
当たり前のように九尾に抱きついているので、晴斗はこめかみに青筋立てて怒鳴った。
「おいっ! お前、なに窓ガラス割ってんだよ! 弁償しろ、弁償!」
「うるさいな。元に戻しときゃ問題ないでしょ」
三尾が面倒くさそうに、三本の尻尾をゆらゆらと揺らす。すると、割れたガラスの破片が次々浮かび上がり、ひとりでに窓枠に嵌っていった。透明なパズルのように破片同士が繋がり、一分もしないうちに元の割れていない窓ガラスに戻った。後で知ったことだが、これもまじないの一種らしい。
「ほら、これで文句ないでしょ? というわけで九尾ちゃん、スイカ食べよ~!」
と、これまた当たり前のように冷蔵庫を開け、小玉スイカを取り出す三尾。
――ってちょっと待て。俺、スイカなんて買った覚えないぞ?
晴斗は三尾の肩を掴んで問い詰めた。
「おい、なんでそんなところにスイカ入ってるんだよ」
「ん? 僕が買ってきたからに決まってるじゃない」
「だから、なんで俺の家の冷蔵庫にお前が買ってきたスイカが……」
「山に冷蔵庫がないからだよ。涼しい場所はあるけど、やっぱり冷蔵庫に入れといた方が確実に冷えるんだよね」
「じゃあお前、俺たちが留守の間に勝手に家に忍び込んだってことか!?」
「別にいいじゃん。スイカ入れに来ただけだし。泥棒するような金目のものだってないしさ」
……開いた口が塞がらないとはこのことかもしれない。
「三尾……スイカを用意してくれたのは嬉しいけど、勝手に他人様の家に上がるのはよくないぞ? 今度からスイカを冷やしたい時は、晴斗に聞いてからにした方がいいと思う」
……九尾、その注意は少しズレているぞ。
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