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第86話

「三尾……お前、何もそこまでしなくても……」 「話が通じる状態じゃないんだよ。こいつ、呪詛がかけられてる」 「呪詛!? どういうことだよ、それ!?」 「説明は後だよ。早くしないと他の応援が来ちゃうから」  晴斗はハッとしてエレベーターに目をやった。エレベーターのランプは現在三階のところで点滅しており、次いで二階へと移り変わった。 「ヤバイ、人が来る! 九尾、逃げるぞ!」 「あ、ああ……」  顔を強張らせている九尾の腕を引っ張り、ひとまずエレベーター前から逃げることにした。ちょうどタイミングよくドタドタと人が下りて来て、「妖怪どもはどこだ!」と叫んでいるのが聞こえた。数人がバラバラに走り去り、手分けしてこちらを捜しているのがわかる。  三人はトイレの個室に隠れながら、外の様子を窺った。 「おい……マジでどうなってるんだよ? 三尾、さっき呪詛がどうのって言ってたよな? まさかこれ、玉藻前の仕業なのか?」 「多分そうだろうね。テレビ局全体に呪詛をかけて、ドアをまじないで封印して、中にいる人を操ってるんだ。玉藻前のことだから、それくらいの呪詛は朝飯前なんだと思う」 「はあっ!? 冗談だろ? 一体何のためにそんなことしてるんだよ!?」 「僕の方が聞きたいよ。あの女の考えてることなんて、僕にはわかんない……って、九尾ちゃん大丈夫!?」  見れば九尾は、すっかり血の気の引いた顔で細かく身体を震わせていた。キツネの耳は元気なく萎れ、尻尾もぶるぶる縮こまっている。きっと封印された日のことを思い出しているのだろう。彼がこんなに怯えているのは初めてかもしれない。 「九尾……!」  晴斗は真っ青になっている彼を強く抱き締めた。なるべく彼が落ち着けるよう、耳元で優しく囁いてやる。

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