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第88話
「でも、収録が行われるスタジオの場所はわかってるんでしょ?」
と、三尾が言った。
「だったら、人間どもの目をかいくぐりながら、そのスタジオまで行く方が早いかもね。玉藻前が建物全体に呪詛をかけているとしたら、自分の控え室にいる可能性が高い。どうせどこのドアも封印されてるだろうし……下手にあちこち歩き回るより、呪詛を止めてやる方が手っ取り早いと思う」
「なるほど……確かにその通りかもしれない。お前、タヌキのくせに頭いいな」
「二十年程度しか生きてない人間の青二才と、千年以上も生きて来たタヌキの妖怪様を一緒にしないでね。それと、『タヌキのくせに』は余計だよ」
憎たらしい言葉は健在だが、今はそれすら頼もしく思える。やはり千年以上も生きているタヌキは、経験の幅も厚みもまるで違うのだ。
「……で、収録スタジオは何階にあるの?」
「十三階の『G05すたじお』だったと思う。晴斗が事務所から受け取った『めーる』には、そう書いてあった。確か一番下の方に……」
念のために確認してみたら、九尾の言う通り、メールの一番下に詳細な場所の情報が書かれていた。そこには確かに『十三階 G05スタジオ』とあった。
「九尾……お前、よく覚えてるな」
「記憶力は昔からいい方なんだ。晴明にも褒められたことがある」
「はあ、そうなのか……。俺、こんな細かい場所までいちいち覚えてないぞ」
「やれやれ……文明が進むにつれて、人間はどんどん馬鹿になっていくね。携帯を持ってなかった頃の人間は、大事な住所や電話番号は全部暗記してたのに」
タヌキの嘆きは聞かなかったことにして、晴斗はスマホをポケットに入れた。そして個室から顔を出し、外の様子を窺った。
――意外と静かだな……。
さっきはあんなに大騒ぎしていたのに、今はさほどの喧騒は感じない。妖怪を見てスイッチが入るのは数分間だけで、それを過ぎれば元に戻るんだろうか。
だとしたら……。
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