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第91話

 そうか、九尾はこれでもキツネなんだ。文化的な生活に慣れた人間とは、もともとの体力が違う。  更に九尾は、驚くべきことを言い出した。 「晴斗、辛いなら私の尻尾で運ぼうか?」 「……へっ? そんなことできるのか?」 「できる。……ちょっと失礼」 「おわっ……!」  九本の尻尾が太ももや腰、背中に絡みつき、ふわりと身体が持ち上がる。思った以上に安定していて、乗り心地がよかった。ツヤツヤでモフモフの尻尾が気持ちいい。  九尾はくるりと前を向くと、尻尾に晴斗を乗せながら階段を上り始めた。 「あー……九尾? 運んでくれるのはありがたいけど、これ重くないのか?」 「大丈夫、晴斗くらいの体重なら余裕だ。もっと重いものを運んだこともあるし……晴明も、疲れた時はよく『運んでくれ』って言っていた」 「……晴明さんも?」 「ああ。自分の足で歩きたくないなら式神にでも運んでもらえばよかったのに、晴明はこの尻尾がお気に入りだったようで……。その点は、少し晴斗と似ているかもしれないな」 「そうか……」  再び黙って、階段を上り続ける九尾。  ゆったりした振動に揺られながら、晴斗は胸の中に置きっ放しの疑惑に考えを巡らせた。  ――晴明さんと似てる……か。  安倍晴斗と安倍晴明は全くの別人だ。同じ「安倍」姓だけど血の繋がりはないし、これといった共通点もない。九尾もそれをキチンと理解した上で、単なる思い出話として晴明のことを語ったみたいだった。決して晴斗と晴明を混同したり、同一視しているわけではなかった。  それでも「安倍晴明」という存在が、葛藤の材料になっていることは間違いなかった。千年以上も昔に死んでもなお、見えない壁となって、九尾と晴斗の間に入り込んでいるような気がしてならない。その壁を早く取り去ってしまいたいのに、意識すればするほど、壁はより厚く硬くなっていく。  神様として奉られている天才陰陽師は、それほどまでに影響が大きいのだ。

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