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第103話

「なっ……!?」  ぎょっとして晴斗は玉藻前を見た。彼女の目は九尾を凝視したまま動かない。 「やめろ! 九尾を殺したら俺もお前のこと殺すぞ!」 「あなたに何ができるって言うの。九尾の呪詛も解けず、私の尻尾からも逃げられないあなたが」 「うわっ……!」  ガクン、と尻尾を落とされ、反射的にそれに捕まってしまう。 「……そこでおとなしく見ていなさい。可愛いキツネが昇天していく姿を」 「ハッ……!?」  晴斗は九尾に視線を移した。彼は足元をふらつかせながらも、ゆっくりと屋上の端に近づいていた。 「だ、ダメだ! やめてくれ、九尾!」  あらん限りに叫んでも、九尾はこちらを振り向こうとしない。声は届いているはずなのに、黙々と端に向かって歩いて行く。その歩みに迷いは見られなかった。 「く……っ、この……!」  空中でもがきながら、心の中で晴明に呼びかける。  何してるんですか、晴明さん! 神社にも奉られているような大陰陽師なら、今こそ力を貸してくださいよ! あなたが原因で起こったこの愛憎劇を、なんとかして止めてくださいよ!  この二匹の妖狐は、あなたが死んだ後もずっと一途に、あなたを想い続けているんですよ?  それなのに、ただ見守っているだけでいいんですか!?  俺があなたの生まれ変わりだというのなら、せめて今だけ……今この瞬間だけでも、力を貸してください……! 「九尾っ!」  角で足を揃えた時、初めて九尾はこちらを見た。その目は何故かとても澄んでいた。

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