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第102話
「封印されている間は手が出せなかったけど……消してあげるわ、今度こそ」
「ッ……だ、ダメだ!」
晴斗は必死にもがいた。
玉藻前の気持ちはわからんでもない。けれど、九尾を殺したからといって安倍晴明は戻って来ない。これでは何の解決にもならない。
「お前の本当の願いは、晴明さんにもう一度愛されることなんだろ!? 今更恨みを晴らして何になるんだよっ!」
「千年以上経っているからって、私の恨みは消えないわ。あのキツネが生きている限り、私の心は晴れないままなの」
「だからって、九尾を殺させるわけにはいかねぇんだよ! 馬鹿なことはやめて、早く九尾の呪詛を解け!」
「九尾を見逃しても、あなたは私のものになってくれないでしょ。九尾を封印した後も、未練タラタラだったもの。ねえ、晴明?」
「だから! 俺は晴明さんじゃねぇって言ってんだろ! いい加減諦めろよ!」
「……本当に気に入らないわね。いつも九尾ばかり愛されて。私だって……いえ、私の方がずっと昔から晴明のこと……」
「っ……」
思わず言葉に詰まった時、ギィ……と屋上の扉が開いた。そこには、息を切らした九尾がよろよろとドアにすがり付いていた。もう立っているのもやっとのようだった。
「九尾……っ!」
急いで駆け寄りたかったのに、玉藻前の尻尾にきつく締め上げられて身動きが取れない。もがけばもがくほど身体に絡み付き、深紅の毛並みが肌に刺さっていく。
「ああ、泥棒ギツネの登場ね」
玉藻前は嘲りのような笑みを浮かべると、晴斗を引きずって屋上の端に立った。そして尻尾を動かし、晴斗を宙吊りにしてきた。
「おわっ……!」
不安定に身体が浮き、慌てて尻尾にしがみつく。足元には地面がなく、慌ただしく道路を行き来している車が蟻の群れのように見えた。高さはおよそ百メートル。ここから落ちたら、さすがに助かるまい。
青ざめている晴斗を尻目に、玉藻前は傲然と言い放った。
「この人間を助けたければ、あなたがここから飛び降りなさい」
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