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第101話

 玉藻前は更に言った。 「でも……でも、九尾が現れてから、晴明は変わってしまった。まるで私のことなんて忘れてしまったみたいに、九尾のことばかり可愛がるようになった……。私に注がれるはずだった愛情を、あの気弱でおとなしいキツネが全部奪っていったのよ」 「…………」 「我慢できなかった。晴明の寝所で夜な夜なあのキツネが可愛がられているのに、私のところには一度も来てくれない。あのキツネの喘ぎ声を聞きながら、眠れない夜を過ごさなければならない。だから私は晴明の屋敷を出たの。そして後宮入りして上皇に取り入ってやったわ。そうすれば晴明も、私に会いに来ざるを得なくなるでしょう?」  玉藻前が何かしらの呪詛を使えば、対応できるのは陰陽師である安倍晴明しかいなくなる。だから玉藻前は、後宮入りした姫たちに呪詛をかけていたのだ。自分の地位を守るためではなく、面白半分の戯れでもなく、ただ晴明に会いたいがために……。 「だけど……私に会いに来ている時も、晴明は私のことなんて見ていなかった。何をしていても、心の中にはいつも九尾がいた。あのキツネがいる限り、晴明はいつまで経っても私を愛してくれない。……だから、消すしかないと思ったのよ」 「……っ……」  ズキン、と胸が痛んで、晴斗は震える吐息を漏らした。  都全体に呪詛をかけ、大勢の人間を操り、よってたかって九尾を殺すよう仕向けたのは、失われた愛を取り戻すためだったのか。もう一度晴明に愛されたかったからなのか。例え呪詛で誰が死のうとも、最終的に晴明が私のところに戻ってきてくれるなら……。  晴斗には、彼女の純粋な叫び声が聞こえたような気がした。

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