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第100話
玉藻前が忌々しそうに口を尖らせる。
「まったく……どいつもこいつも、九尾ばっかり可愛がって……。昔の晴明も、私より明らかに九尾を気に入っているみたいだったわ。あんなキツネのどこがそんなにいいの?」
「晴明さんのことは知らないけど、俺は別に美人だから好きになるわけじゃないからな。例え絶世の美女でも、性格がブスだったら告白されても交際断るし。要はその人の人間性なんじゃないか?」
「…………」
「お前は晴明さんの気を引きたかったみたいだけど、こんなことしても晴明さんは振り向いてくれないぞ。本当に晴明さんのことが好きなら、『好きです』ってハッキリ言ってやればよかったんだ」
「黙りなさい!」
途端、玉藻前の美しい顔が怒りに歪んだ。
「九尾さえいなければ、晴明はずっと私のものだったの! 九尾さえいなければ、晴明は私のところに戻ってきてくれるはずだったの! 現に九尾が現れる前は、晴明はちゃんと私を愛してくれたわ! 私を屋敷に住まわせて、日毎たっぷり可愛がってくれたわ!」
「え……?」
それは初耳だ。九尾が晴明の屋敷に住んでいたことは聞いていたけど、玉藻前まで住んでいたなんて知らなかった。九尾は「直接会ったことはない」と言っていたが、屋敷内で顔を合わせたことがないだけで、同じ場所に住んでいた時期があったのかもしれない。
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