99 / 134
第99話
空間を抜けた先には、青空が広がっていた。
晴斗は、玉藻前と共にテレビ局の屋上に立っていた。約百メートルの高さがある高層ビルからは、周辺の街が一望できる。素敵な景色とは、このことを言っているのだろうか。
「くそ……! ていうか、いい加減放せよ! こんなところに連れて来て、一体何をするつもりだ!」
「すぐにわかるわ、晴明」
変わらず自分を「安倍晴明」呼ばわりしている玉藻前。いい加減イラッとして、晴斗は眉間にシワを寄せた。
「だから俺は晴明さんじゃないって言ってるだろ。なに勘違いしてんだよ」
「いいえ、あなたは晴明よ。正確には、安倍晴明の生まれ変わりかしらね」
「……へっ?」
「経緯は知らないけど、九尾の封印を解いたのもあなたでしょう? あれは晴明以外には解けない封印だもの。私の呪詛さえ通さない、頑丈な水晶だったわ。よっぽど九尾を守りたかったのね」
「……!」
晴斗はハッと息を呑んだ。玉藻前の言葉が、今までのモヤモヤした疑問を一瞬にして解決してくれた。
――俺が、晴明さんの生まれ変わり……だと?
いや、いくらなんでもそれはあり得ない。俺は晴明さんみたいな陰陽術は使えないし、呪詛の解き方もわからない。自分の力で九尾を守ることもできず、それどころか玉藻前に連れ去られてしまう始末。そんな無力な人間が、晴明さんの生まれ変わりのはずがないではないか。
仮に生まれ変わりが真実だとしても、自分はあくまで「安倍晴斗」である。京都出身の二十歳の学生で、これといった取り柄もない、ごく普通の人間だ。神社にも奉られているような天才陰陽師・安倍晴明とは全く別の人間だ。
いや……この際、生まれ変わり云々の話は横に置いておくことにする。
そんなことより、もっと重要なことは……。
――晴明さん……あなたは、九尾を裏切ったわけじゃなかったんですね……。
晴明が九尾を封印したのは、玉藻前の呪詛から九尾を守るためだった。晴明は最後まで九尾を愛していたのだ。彼は最愛の人を、自分の手で守り抜いたのだ……。
ともだちにシェアしよう!