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第106話(九尾~晴斗目線)
でも、もういいのだ。飛び降りようが飛び降りまいが、自分はもう限界。強力な呪詛のせいで目の前も霞んできている。本当は、今ここに立っているのもやっとの状態なのだ。晴斗がだんだん晴明に見えてきているのも、きっと意識が朦朧としているからだろう。
「晴斗……」
私はいつも誰かに守られていた。晴明にも晴斗にも……それと、三尾にもたくさん助けてもらった。こんな無力で情けない妖狐にはもったいないくらいだった。
だから、せめて最期くらいは……。
「……今までありがとう。私もあなたのこと、愛してる」
九尾は両腕を広げた。今なら鳥のように飛んで行けるような気がした。
さようなら、晴斗。あなたは天寿を全うするまで、幸せに生きてくれ……。
***
「九尾ぃぃっ!」
晴斗の目の前で、九尾は華麗に落下していった。驚くほど晴れやかな顔をしていた。
動揺して音は聞き逃してしまったが、下を見るまでもなく結果は明らかだった。百メートル下の地面に叩きつけられたら、さすがの妖怪でも無事ではいられない。
九尾は晴斗を助けるために、テレビ局の屋上から飛び降りて死んだのだ。
「きゅう……び……」
一体どこで間違えたのだろう。玉藻前の楽屋に踏み込んでいなければ。別の出口を探して脱出していれば。この仕事を断っていれば。そもそも玉藻前に会おうとしなければ……。
『私もあなたのこと、愛してる』
そんな言葉、聞きたくなかった。死ぬ直前の告白ほど辛く悲しいものはない。
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