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第107話
――何が「俺が守ってやる」だよ……。
俺が守ると約束した。俺がいるから大丈夫だと九尾を安心させた。
けれど大丈夫どころか、結局足手まといにしかならなかった。九尾にかけられた呪詛も解けず、玉藻前の人質にされたまま、みすみす九尾を死なせてしまった。玉藻前の暴走も九尾の自殺も止めることができず、目の前で最悪の結末を突き付けられた。
どうして俺は何もできなかったのか。どうしてあの時こうしなかったのか。どうして、どうして――。
後悔ばかりが押し寄せ、自分の無力感に打ちのめされる。
「ふふ……ふふふ、これでもう邪魔されることはない……。晴明はずっと私のもの……ふふ」
どこか壊れたように笑う玉藻前。長年の恨みを晴らせたはずなのに、その目は虚空を眺めているだけ。
――玉藻前、お前は……。
どんなに人間に呪詛をかけても、九尾を亡き者にしても、彼女が満足することはない。彼女の本当の願いは、晴明にもう一度愛されること。その願いは何をしても叶うことはない。常に渇いた心のまま、晴明の愛を求めて虚しく生きるだけ。
それならなおのこと、このまま放っておくわけにはいかない。
「……わかった。それなら俺が、晴明さんのところに連れて行ってやる」
「えっ……?」
晴斗は深紅の尻尾をしっかり掴んだ。驚愕している玉藻前の顔が視界の隅に見えた。
迷うことなく晴斗は、玉藻前ごと屋上を蹴った。一瞬、自分の身体がふわりと宙に浮いた。
「やめ……きゃああぁぁっ!」
玉藻前が叫んでいたが、重力に従って落ちていくにつれ、やがて何も聞こえなくなった。
勢いよく落下していく感覚だけ残して、晴斗の意識も闇へと落ちていった。
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