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第113話

「向こう岸に渡ってしまったら手遅れだけど、今ならまだ現世に戻れる。本当は、三途の川を渡りに来た者を追い返してはいけないのだが……私もいろいろと迷惑をかけたからね。きみたちにその意志があるのなら、帰り道を開いてあげよう」  晴明が人差し指と中指を揃えて、軽く左右に振った。すると白い空間が大きく歪み、光輝くゲートのようなものが出現した。これが現世へ引き返す道ということか。  晴斗は、晴明をまじまじと見つめた。 「晴明さん……もしかして、このためにわざわざ来てくれたんですか?」 「それもあるが……このまま三途の川を渡らせてしまっては、自分の尻尾を犠牲にしてまできみたちを守った三尾に申し訳がないと思ってね」 「……えっ? 三尾ってあの化けダヌキですよね? アイツ、敵前逃亡したんじゃないんですか?」 「まさか。三尾はなんとかきみたちを助ける方法はないか、いろいろ考えていたんだよ。玉藻前を止めることができないなら、せめて転落だけでも防げないか……とね。三尾の尻尾は、非常に優秀な緩衝剤になる。だから彼は術で自分の尻尾を膨張させて、きみたちが落ちてくる地面に敷いておいたんだ。それがなかったらきみたちは『引き返す』という選択肢すら与えられず、一発であの世行きだったろうよ」 「……それ、本当なんですか?」 「嘘だと思うなら、向こうに戻った時に三尾の尻尾を確かめてごらん」  そう言えば、最初に九尾がビルから落ちた時、ドスンという音がしなかった。動揺していたから聞き逃したのだと思っていたが、あれは三尾の尻尾の上に落ちたからだったのか。だから、ギリギリ半死半生の状態で済んだということなのか。  ――なんだよ、あいつ……。  思わず苦笑が漏れる。本当に食わせ物のタヌキらしい。

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