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第114話

 だが……と、晴斗は九尾に目をやった。自分は帰る気満々だけど、九尾はどうするのだろう。 「九尾……お前はどうするんだ?」 「えっ……?」 「帰るつもりはあるのか? それともこのまま、三途の川を渡るか?」 「それは……」 「俺のことは気にするな。九尾の好きな方を選んでくれれば、それでいい。お前は晴明さんの方が好きだろうし、俺が邪魔になるならここで別れても……」 「それは違う!」  九尾が強い口調で否定してきた。 「晴斗、忘れているようだからもう一度言う。私はあなたを愛してる。これからもずっと、あなたのことが好きだ」 「え……ほ、本当か? 九尾は晴明さんのことが好きなんじゃないのか?」 「晴明のことは好きだけど……今は、そういう気持ちじゃなくて……。もう二度と会えないと思っていたから、久しぶりに会えて嬉しくなっただけで……。それよりも私は、晴斗と離ればなれになる方が嫌だ」 「そうなのか? でも俺、晴明さんみたいな有名人じゃないし、神社に奉られるような立派な人でもないぜ? 本当になーんにもできない、どこにでもいるただの大学生だ」 「……何故そんなことを言うんだ? 私は、立派な人物だからその人のことを好きになるわけじゃない。あなたが晴斗だから、好きになったんだ」 「九尾……」 「だから、これからもずっと一緒にいて欲しい。あなたの側で生きていきたい」  そして銀色の尻尾を一本晴斗に握らせ、更に言った。 「それに、私は晴斗の好きなモフモフの耳や尻尾も持っているから、きっと飽きることはないと思うんだ。触りたいなら、耳でも尻尾でも、好きなだけ触っていいから……」  残り八本の尻尾が優しく身体を撫でてくる。ふわふわの体毛に全身をくすぐられ、つい噴き出しそうになった。

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