12 / 22

Vanilla Bath

リョウが店に戻ると、受付カウンターには店を出るときに受付を変わってもらったキャストではなく、眼鏡の男が座っていた。 「あれ? カズサは?」 「指名入った。  お前な……キャストに受付押しつけてどこ行ってたんだよ……って、おい、お前まさか外で接客してたとか言わないだろうな?」 リョウが片手にぶら下げていた接客グッズが入ったカゴを目ざとく見つけた男が顔をしかめる。 「いや、金は受け取ってないし、そもそも男だから客じゃないよ。  ……ま、向こうはどう思ったか知らないけど」 そう言いながらリョウは、自分の顔がちょっとだけ不機嫌にしかめられているのを自覚する。 「ふーん、男ね。  それでお前は面接の予定が入ってるのを忘れて、客でもない男とその道具を使うようなところにしけ込んでたと」 「悪かったって。  あんまりにもタイプだったから、面接のことすっかり頭から抜けてたんだよ」 「あー、お前のタイプっていうと、おとなしくて流されやすそうな、すれてない地味な感じの子な」 「……お前、身も蓋もないな。  まあ、間違ってはいないけどさ。  ついでに言うと、初対面の俺に子犬みたいに懐いてくれて、その上ゲイの自覚もないくせに感じやすくて、すごくかわいかった」 「はいはい。ノロケはもう結構」 「あーあ、あの子、電話くれるかな」 「……は? お前、その子の電話番号聞かなかったの?」 「番号どころか、名前も聞いてないよ」 「お前が? 珍しいな」 「まあな。  聞き出すのは簡単だったんだけど、何て言うかさ……ほら、一緒に遊んだ野良の子犬を抱いて帰って飼うのは簡単だけど、どうせなら子犬の方からついてきて欲しい……みたいな?  あとは、まあ……うん、らしくもなくハマりそうで怖かったってのもあるかもしれない」 「うわ、それは本当にお前らしくないな。  これは明日は大雨だな」 「うるさい。  ま、もし子犬の方からついてきてくれたら、怖いとか言ってないで、全力でかわいがる気まんまんだけどな」 リョウがいつもの調子でそういうと、相手はちょっと笑ってからぼそっと言った。 「……電話、かかってくるといいな」 「ああ」 リョウがそう答えたところで、店のドアが開いて若い男が顔を見せた。 「すいません、面接をお願いしたものですが」 「はい、お待ちしてました」 男を出迎えた時にはもう、リョウの顔はきっちりと仕事モードになっていた。

ともだちにシェアしよう!