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中断

「…ぅん……」 唇をふさがれている息苦しさのせいか、それとも快感のせいか、思わず声をもらしてしまうと、それを機会にリョウの唇が離れていく。 「あっ……」 思わず上げた声は、今度は自分でも名残惜しそうなのが分かって、ナオトは恥ずかしさに顔を赤らめる。 「かわいい」 小さくつぶやいたリョウの唇は、しかしナオトの希望は叶えてくれず、ナオトの左耳へと移る。 耳元でリョウの吐息を感じたかと思った次の瞬間、耳たぶを柔らかく噛まれ、ナオトはびく、と体を震わせる。 と、その時、どこからか唐突に電子音が聞こえてきた。 CMか何かで聞き覚えのあるメロディは、たぶん携帯の着メロだと思うが、ナオトのものではない。 「あの、電話、鳴ってる……」 「ん、いい。気にしないで」 どうやらリョウは電話を無視してしまうつもりらしい。 けれども電話はずっと鳴り続けて、いっこうに止む気配がない。 ナオト自身のものじゃなくてもさすがに気になって、リョウが耳を舐めてくれている感触にも集中出来ない。 延々と鳴り続ける電話をいいかげん無視出来なくなったのか、ちっと小さく舌打ちをして、リョウが起き上がった。 「ごめん」とナオトに一言断って、リョウは自分の服がある風呂の脱衣所へと向かう。 リョウと離れてしまうと、急に自分が裸であることが恥ずかしくなってきて、ナオトは慌てて起き上がって、布団をかき寄せた。 下半身を布団で隠していると、リョウがスマホを持って、こちらに引き返してきた。 電話に答える声は明らかに不機嫌だったが、ナオトと目が合うと微笑んで、ベッドに腰掛けてナオトの頭をぽんぽんと軽く叩く。 「あー、悪い。完全に忘れてた。  それ、何とか時間ずらしてもらえないかな」 内容まではっきりと聞こえるわけではないが、電話の相手はリョウの言葉に怒っているようだ。 察するに電話は店からで、もしかしたらリョウは他の客の予約か何かがあったのを忘れていたのかもしれない。 そう想像すると、なぜか急に胸が苦しくなった。 行かないで。 そんな言葉が喉まで出かかる。 けれども、そういうわけにはいかないだろう。 こっちは男性お断りなのを融通を利かせてもらってここにいるのだから、リョウに通常の仕事があるならそっちを優先してもらわなければいけない。 相変わらず電話の相手に交渉を続けているリョウの膝を軽く叩くと、リョウがこっちを向いた。 そのリョウにナオトは唇の動きで、行って、と伝える。 小さく首をかしげたリョウに重ねて、店戻って、と伝えると、ようやく伝わったようだ。 リョウは片手を顔の前に立て、謝る仕草をしてきた。 「分かった、今から戻るよ」 電話の相手にそう答えると、リョウは電話を切った。 「ほんと、ごめんね」 「いえ」 ナオトが答えると、リョウはちょっと頭を下げてから、脱衣所へ行って速攻で服を着てきた。 そうしてホテルに備え付けの電話でフロントに電話を掛け、一人だけ先に出ることを伝える。 そうしている間も、リョウの手は側にあったメモ用紙に慌ただしく何かを書き付けている。 さっきまでの嵐のような快感の連続の余韻からまだ抜け切れてないナオトは、そんなリョウをベッドに座ったままでぼんやり眺めていた。 そうしているうちに、ナオトはふとあることに気付く。 電話を切ったリョウがこちらを向いたので、ナオトは今気付いたことを口にする。 「あの、僕まだ料金払ってませんでしたね。  いくらですか?」 そう言うと、リョウはなぜか一瞬複雑そうな表情になったが、すぐに普通の表情に戻って答えた。 「まだ途中だったし、お金はいいよ」 「いえ、そういう訳には。  その……十分なこと、してもらったし」 「そう思ってくれたんだったら、今回はいいから、また近いうちに俺のこと指名してくれる?  店の方に来てもらうのはちょっとまずいから、ここに直接電話してくれたらいいから」 そう言うとリョウはさっき何か書いていたメモ用紙を差し出した。 そこには携帯のものらしき番号だけが書かれている。 ナオトがはい、と答えてメモを受け取ると、リョウは微笑んだ。 「ホテルの方はまだ時間あるから、もうちょっと休んでるといいよ。  時間のちょっと前になったらフロントから連絡入るから」 「はい。  あの、今日はありがとうございました」 「こちらこそ。  じゃ、電話待ってるね」 そう言うと、リョウはナオトに手を振ってからホテルの部屋を出て行った。 そうすると何だか急に気が抜けたようになってぐったりとしてしまい、ナオトはリョウに言われたように再びベッドに横になった。

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