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再会
リョウが指定したカフェはすぐに見つかった。
土地勘がないのではっきりとは分からないが、どうやら店とは逆の方向にあるようだ。
店に入ったナオトはコーヒーと、少し迷ってサンドイッチを買った。
正直緊張していて食欲はないけど、途中でお腹が鳴ったりしたら恥ずかしいから、少しは食べておいた方がいいだろう。
コーヒーを受け取って店内を見回すと、都合良く窓際の席が空いていたので、そこに座ることにする。
この席ならリョウが来てもすぐに分かりそうだ。
窓の外を気にしつつサンドイッチを食べ終えた頃、外の通りをリョウがこちらに向かってくるのが見えた。
今日のリョウは先日の制服ではなく、普段着らしいカットソーとジーンズを着ている。
別にどうということのないありふれた格好なのに、街を歩く人たちの中でも一際目立っているところがさすがだ。
リョウの方も店内にいるナオトに気付いたらしく、こっちに向かって小さく手を振った。
さすがに手を振り返すのは気恥ずかしくて、ちいさくぺこりと頭を下げると、リョウは微笑んだ。
リョウが出ておいでというように手招きするので、ナオトはテーブルの上を片付けて店の外へと出た。
「待たせてごめんね。じゃ、行こうか」
「はい」
店の出口に立っていたリョウにうながされ、並んで歩き出す。
かっこよくて背が高いリョウの隣にいると、自分の方が明らかに見劣りしているのが分かるからちょっと恥ずかしい。
それでもまたこうしてリョウと会えて、一緒に歩けるのは素直に嬉しいとナオトは思う。
「あ、そうだ。
お客さんの名前、聞いてもいい?」
「あ……」
やっぱり名乗っていなかったかと思わずあげた声を、リョウは違う意味で受け取ったらしい。
「本名が嫌だったら、呼び名とか偽名でもいいよ。
お客さんって呼ぶよりは、何か君だけの呼び方で呼びたいなって思っただけだから」
「あ、えっと、ナオトです」
そう言われて、ナオトは思わずフルネームではなく、下の名前だけを名乗ってしまった。
けれどもそれは別に本名を隠したかったわけではなく、同僚や学生時代の友人達に呼ばれるように名字ではなくて、リョウには名前で呼ばれたいと思ってしまったからだ。
「うん、分かった。
じゃあ、ナオト」
さっそく名前を、しかも呼び捨てで呼ばれ、それだけでナオトはどきどきしてしまう。
「今日なんだけど、俺の部屋の風呂でもいいかな?」
「ええ? いいんですか?」
リョウの部屋に行けるなんてナオトはすごく嬉しいけど、リョウの方は客でしかない、しかもまだ会って2回目のナオトを自分の部屋に連れて行ったりしてまずくないんだろうか。
「いいもなにも、俺の方の都合だからね。
ほら、この前みたいにホテルだと、ボディーソープとか持ち込めなくて、店と同じってわけにはいなかいからさ。
だから今日はナオトから電話があってから、店から必要なものを俺の部屋に運んでおいたんだ。
だから出来れば俺の部屋でお願いしたかったんだけど……、嫌だったら前みたいにホテルにする?」
「い、いえ大丈夫です。
リョウさんの部屋でお願いします」
ナオトが慌ててそう答えると、リョウの少し不安そうな表情がぱっと明るくなった。
「よし、そうと決まれば早く行こうか。
もうちょっとで着くから」
そう言って少し足を早めたリョウにおいて行かれないように、ナオトも慌ててついていく。
なんだか無性に胸がどきどきしてしまうのは、決して早足になったせいではないことは、ナオト自身にも分かっていた。
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