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入浴
リョウに連れて行かれた彼の部屋は、若い男が一人暮らしするには立派過ぎるものだった。
「すごい部屋ですね……」
風俗の仕事とはそんなに儲かるのだろうか、いやリョウが特別売れっ子だからだろうかとナオトが複雑な気分で室内を眺めていると、リョウにハンガーを渡された。
「こんなに広い部屋じゃなくてもいいんだけど、お風呂が広いところとなると、このクラスしかなくってね。
ちょっと無理しちゃった。
あ、上着脱いでそこにかけといてね」
「はい」
ハンガーを受け取り、浴室らしき扉へと消えていくリョウを見送りながら、ナオトは言われたようにスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外す。
お風呂が広い部屋に住みたいってことは、やっぱりプライベートでもお風呂が好きなんだよね……。
それもきっと一人で入るのではないのだろうなと想像すると、またもやもやとした気持ちになってくる。
いや、こんなこと考えてる場合じゃなかった。
今日は楽しみに来たんだし。
気持ちを切り替えるように首を振って、ナオトはスラックスを脱ぐためにベルトに手をかける。
あ、待てよ?
下はまだ脱がなくてもいいのかな?
ちょっと迷って手を止めたその瞬間、浴室の扉が再び開いた。
ちょうど出てきたリョウとばっちり目が合ってしまい、ナオトが固まっていると、リョウがちょっとおかしそうに言った。
「うん、下も脱いでくれるかな」
うながされてスラックスを脱いでいるあいだ、リョウは何やら楽しそうな様子でナオトのことを見ていた。
そんなふうに見られるのは無性に恥ずかしくて、ナオトは急いでスラックスを脱いでハンガーにかける。
「ナオト」
呼ばれて振り返ると、リョウに手をつかまれ、そのまま浴室へと連れて行かれた。
脱衣所に入るとリョウはさっさと自分の服を脱ぎだしたので、ナオトも残っている自分の服を脱いだ。
綺麗に筋肉がついたリョウの体は相変わらず立派で、あまり見ないようにしようと思ってもついつい目が行ってしまう。
その上リョウは、ためらいもなく下着まで――ちなみに今日は水着ではなくボクサーブリーフだった――脱いでしまったので、その中身まで目に入ってしまい慌てて顔をそらしたが、ちらりと見えたその立派なものは目に焼き付いてしまった。
リョウが脱いでしまったのでナオトも脱がないわけにはいかず、仕方なくリョウに背中を向けて自分のトランクスを脱いだ。
せめてこの前のようにタオルで隠そうとしたが、その前に浴室のドアを開けたリョウが、背を押して入るようにうながしてきたので、仕方なく手で隠しながら浴室に入る。
リョウがいうように、浴室も浴槽も広くて、二人で入っても余裕がありそうだった。
洗い場にはこの前と同じ小さなかごの他にボディーソープの大きなボトルと、少し大きめで座面が凹型にへこんだ妙な形の椅子と、形もサイズも普通の椅子とが置いてあった。
浴槽にはすでに湯が張ってあり、先日と同じバニラの入浴剤で白く濁っている。
「この前入らなかったし、先にお風呂入ろうか」
リョウがそう言ったのでうなずくと、それぞれかけ湯をしてから湯船に入った。
ナオトが前側に入り、リョウがその後ろからナオトを抱きかかえるようにして湯船につかる。
「なんか、肌すべすべになりそうですね」
黙っているとどきどきしすぎてのぼせそうで、気を紛らわせようと、ナオトはリョウに話しかけた。
「そうでしょ。
この入浴剤、お客さんに評判いいんだよね」
そう言うとリョウは、その肌の具合を確かめるように、ナオトの二の腕を何度か撫でた。
性的な匂いを感じさせない、そんな何気ない接触でさえ、いや、むしろそういうサービスとは直接関係のない接触だからこそ、無性にうれしい。
ああ、やっぱり好きなんだ。
そんなふうに感じる自分に、ナオトはリョウへの気持ちを自覚せざるを得ない。
けれども自覚したと同時に、胸がひどく苦しくなる。
覚悟はしていたけど、叶うことのない片想いはやっぱりつらい。
気のせいか目頭まで熱くなってきた気がする。
こんなんじゃ駄目だ。
もし恋愛感情だったら、最後の思い出を作らせてもらうって決めたんだから。
そう無理矢理気持ちを切り替えて、ナオトはそのために自分の望みを口にする。
「キス……してもいいですか?」
「ん? ナオトがしてくれるの?」
勇気を出してそう聞くと、リョウはちょっとからかうような声音で聞き返してきた。
そんなふうに言われると恥ずかしくてたまらなかったけど、何とかこくりとうなずく。
「……いいよ、して?」
そううながしてくれた声はやさしく、もうからかうような色はなかったので、ナオトはほっとしつつ、リョウと向かい合うように体勢を変えた。
膝立ちになって少しだけ上から見下ろす顔も、変わらずかっこいい。
リョウの両肩に手を置くとリョウが目を閉じてくれたので、ナオトは自分も目を閉じて顔を近づけていく。
自分の方からするキスは、うまくは言えないけどされるのとはまた違う心地よさがあった。
前にリョウがしてくれたように唇の隙間から舌を入れてみると、それに応えるようにリョウの舌が絡められる。
くちゅくちゅといういやらしい水音に、時折ちゃぷんという風呂の湯の水音が混ざる。
夢中で舌を絡め合っていると、自分の方からキスしているのか、リョウにキスされているのか分からなくなる。
いつの間にか、背中に回されたリョウの手の指先に、思わずといった感じで力が込められたのが分かる。
それがうれしくて、ナオトはまた、キスに溺れていく。
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