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後日談
夜桜が盛大に咲き誇る街一番の花見スポット。
広々とした公園に縦横無尽に張り巡らされた提灯の元、多くの客が飲み食いに耽って春の宴にどっぷり溺れている中で。
「二朗兄さん、缶ビールが切れちゃった」
「はぁ? だから1ダースじゃ足りねぇ言っただろーが、今すぐダッシュで買ってこい、ついでにチー鱈も買ってこい」
退魔師一族の小彼岸兄弟、二朗と三吾もまたブルーシート上にお弁当やらチキンボックスやらバラエティセットを広げて春の宴を満喫していた。
「はっ。さすが小彼岸兄弟、爪が甘いねぇ」
「ちゃんと用意してるでしゅ」
小彼岸兄弟によって催された花見の席には、休戦協定を結んだとはいえ、かつて敵対していたはずの月喰い金鬼一派、烏天狗兄弟の中凶と小凶も同席していた。
「三吾おにいちゃん、ぼくとも乾杯してくださいでしゅ」
「小凶君、その姿で飲酒はちょっと」
「ほんとの姿に戻った方がいいでしゅか?」
「それもちょっと」
「かたいこと言ってんじゃないよ、猛禽妖なめんじゃねーぞ、小彼岸さんよぉ?」
「そーだな、どっちかって言うと舐められるより舐める方が好きだもんな、クソビッチの烏天狗さんよ?」
「いやん♪ 二朗のばかぁ♪」
なんだかんだでそれぞれ惹かれ合ってちょくちょくつるんでいる小彼岸兄弟と烏天狗兄弟、酔狂な夜にすっかり溶け込んでお酒を飲み交わすのだった……。
夜九時を過ぎても制服を着た十代の少年少女がおしゃべりしているファストフード店、二階の窓際席。
「予想してたよりもらえたねぇ」
「不動産会社、いいかもな、持て余してる事故物件の地縛霊除去、一件につき一万ってとこかな」
「二万にしようよぉ」
「そっか、どうせなら三万にしよーか」
バーガーとサイドメニューをぱくつく二人。
同じフロアにいる多くの女子の視線を集めながらも周囲にはまるで関心ナシ、ありきたりなはずのファストファッションブランドを優れた素材で洗練された風に着こなして今後の生活設計について話し合っている。
「修羅丸、ついてるよぉ」
ポテトをもぐもぐしていた朱色はお手頃コスメなるマニキュアが綺麗に塗られた爪の先を彼の頬へ。
「お前だって、朱色」
バーガーに豪快にかぶりついていた修羅丸は長く太い指を彼の口元へ。
二人は双子だった。
勝手に親元を離れて宿命からトンズラこいた、互いを宝物としている、頑なに寄り添い合う二人だった。
「じゃぁ別のネカフェ行こ、今のとこシャワーの出が悪ぃんだもん」
「風呂なんて二日か三日に一回でいーだろ」
「修羅丸、ぇっちするときにぼくがプンプンにおってもぃーの」
「……やだ」
お互いの粗相をぺろりして見つめ合う、どこにいようと二人きりの世界にどっぷり平然と浸かる双子なのだった……。
そんな双子の母親、おのこはらみだった壱は。
「大凶くん、翼を見せてくれませんか?」
「壱様のお望みならば」
「そんな他人行儀な言葉遣い、やめてほしいです、前みたいにおのこはらみ呼びの方がしっくりきます」
「……」
小彼岸家現当主である己に仕える、鳥妖眷属において最も兵と評される大凶がお屋敷の庭園で人型から真の姿へ移り変わるのを惚れ惚れと眺めていた。
月明かりに翻る漆黒の翼。
夜風に黒袴の裾を靡かせ、鋭い嘴から白い息を噴き散らし、大凶は美しい主人と向かい合った。
「綺麗です、大凶くん」
「それはあんただろう、壱」
名前で呼ばれて壱は嬉しそうに微笑んだ。
かつて姫のように扱われていた元おのこはらみ、今は父親の跡目を継いで当主の風格を備えつつも、時にやはり人外じみた儚い美しさを放つ。
「弟達はお花見に出かけてるんです。夜桜見物へ」
「桜なんて見飽きた」
「まぁ、確かに、永く生きてきた大凶くんからしてみれば」
「俺は……桜よりもあんたの方が……」
「え?」
「……なんでもない」
月明かりに濡れたように艶めく黒羽根に頬を埋めた壱は頬を紅潮させて囁いた。
「こんな夜は桜よりも貴方にいつまでも見惚れていたいです」
永遠の宵闇に海原の如く広がる竹藪。
その中心に構えられた古めかしくも立派な屋敷。
恐ろしく活きのいいイチモツが際どく収縮する肉孔の限界奥で荒ぶるような絶頂を迎えた。
「は……っっ……!!」
浴衣を乱して片方の肩、しっとり汗ばむ太腿をあられもなく夜気に曝した宮比は敷布団に爪を立てた。
逃げがちな腰を背後から鷲掴みにして問答無用に引き寄せ、金鬼は、熱流を叩きつける。
刃向かうように強まる肉圧の中、雄々しく怒張するイチモツから濃厚精液をたんまりしぶかせた。
延々と欲してきた胎底に思う存分種付けした。
「あ……ックソ……っいつまで射精しているッ……この絶倫物の怪が……!」
ずれ落ちた眼鏡、露出した肩越しに宮比はまだ種付け中である金鬼を悔し紛れに睨め上げた。
「憎まれ口を叩く元気があるなら、まだまだ愉しめるなぁ、ミヤビよぉ?」
湯気を立ち上らせる屈強な肉体、両頬にまで走るシンメトリーの縞模様。
やたら黒々した鋭い眼。
牙じみた八重歯を覗かせてぞんざいに笑う。
「もっといれてくれよ」
金鬼は微痙攣を繰り返す宮比の背中に厚い胸板を密着させ、雄膣底に種付けしながら抜き挿しを、ねっとり濡れそぼつイチモツ頂きで満遍なく掻き回した。
布団と宮比の狭間に片腕を捩じり入れ、探り当てた肉茎をこれでもかと愛撫してやる。
すでに反り返っていた熱塊をとことん甘やかしてやる。
宮比は歯軋りして這い蹲った。
独りでに揺れる腰。
尻孔抽挿と肉茎愛撫の同時進行に理性が解けてつい声を上げそうになる。
「別にいいんだぜぇ、宮比? 可愛らしくあんあん鳴いたってよ」
「誰が……ッお前なんざに媚びるか……ッこの助平物の怪……ッ」
意地になって快楽を抑え込んでしぶとく悪あがきする姿もそれはそれで悪くないが。
「たまにゃあ求めてくれたっていいんじゃねぇのか、連れ合いなんだしよ」
連れ合い、と言われて宮比の胸底は甘い戦慄にゾクリと震えた。
すでに把握されていた雄膣奥のいいところを執拗に攻められて内腿がガクガクし始める。
愛撫をやめない不躾な手にはち切れそうなくらい性的欲求が膨らんでいく。
「あッ……そこ……っ」
「お前のいいところだよなぁ? 突けば突くだけ嬉しそうに締まりやがる」
「そんな、こと、は……ッ……ッ……あ……ッああ……ッ」
先走りの露が滴って肉茎をしごかれる度にグチュグチュと音が鳴り、尻奥の敏感な場所を立て続けに種付けイチモツで擦り上げられて宮比は仰け反った。
仰け反ったところで後ろから金鬼に口づけられた。
欲深な舌に唇まで支配された。
行燈の仄かな明かりに照らされて障子に浮かび上がる淫らな宴の影。
「鳴けよ、ミヤビ」
宮比はしとどに濡れた双眸で鋭い眼を見つめた。
「金、鬼……ッ」
「そうだ、呼べ、もっと」
透明な雫が溢れ続ける肉茎先端、とろとろな鈴口を親指の腹で小刻みにしごかれた。
白い双丘に勢いよく幾度となく打ちつけられる厚腰。
卑猥に捲れ上がった結合部から掻き出された白濁泡が重たげに火照る肌身を滴っていく。
「あ、あ、もぉ……っ……だめ……」
「いくか……? 俺に種付けされながら?」
「ん……っ……っ……いく……っ」
「いけよ、ミヤビ」
「あ、ぅ、ぅ……っ金鬼、ぃ……っあ……ン……!!」
「俺とお前でどこまでも馴染み合おうじゃねぇか」
小彼岸家が絶対の敵としていた物の怪、月喰らいの金鬼に見初められて宮比は初夜じみた契りを何度も……何度も……何度も……。
「お前は私の腰を再起不能にする気か」
「タガが外れちまった」
「フン」
「何せ長年恋い焦がれていた相手だからな」
「……フン」
「お詫びといっちゃあ何だが」
途方もない気だるさに襲われて布団に突っ伏していた宮比は伏せがちだった目を見張らせた。
視界を過ぎった花弁。
はらはら、儚げに舞い降りてくる地上の断片。
「側近どもに持ち帰ってもらった」
両手いっぱいに持っていた桜の花びらを惜し気もなく布団に横たわる宮比に舞い散らし、胸元が肌蹴た単衣に色鮮やかな上衣を肩から羽織った金鬼は笑った。
「お前の腰が復活したらちょっくら遊びに行くか」
「誰がお前と花見なんか」
「デートしようぜ、ミヤビ」
「馴れ馴れしい」
手元に落ちた花弁を掬い上げ、宮比は、微かに笑んだ。
「私と逢引がしたいのならそれ相応のもてなしが必要だからな」
添い寝した金鬼は花弁が引っ掛かった宮比の髪をいとおしげに梳いた。
とこしえに飽きない一輪の花の如き男に、想いを捧げるように、口づけた。
えんど
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