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バレンタインデーオマケ-2

本当は。 今日、野宮は久世にチョコレートをこっそり用意していた。 ただ、素面で渡すのは恥ずかしくて程よく酔っ払ってからにしようと考えていた。 「今日さ、赤ワインも買ってるから、これ空いたら飲もうよ」 久世にも普段より酔っ払ってもらうつもりでいた。 「締めはどうする? ラーメンあるけど、ごはん入れて卵落として雑炊にしてもいーよなー」 「悩ましい二択だね」 「あ~~。コタツ最強」 「いきなりコタツの話?」 「もうここから出たくない。コタツに住みたい」 夜八時過ぎ、渋味が効いたフルボディの赤ワインに切り替えた二人はのんびりまったり鍋を突っつき合って……。 「んんん……?」 気がつけば零時を過ぎて曜日が変わっていた。 コタツに潜り込んでいた野宮は、寝惚け眼で頭を起こそうとし、自分を抱き枕にして寝ている久世にふにゃりと笑った。 久世サンも一緒に寝落ちするなんて珍し……。 テーブルの上はいつの間にか片付けられていた。 空になったボトルとグラスが真ん中に一纏めにして置かれていて、暖房の効いた室内には鍋の残り香が漂っていた。 「ふわぁ……あ、そーだ……」 染め直したばかりの茶髪をしんなりさせた野宮、久世の両腕の輪からもぞもぞ抜け出すと、ビジネスバッグに入れていたチョコレートを取り出した。 今日、職場の近くの洋菓子店で帰りがけに買った。 ホワイト系の包み紙にブルーのロゴ入りリボン、笑顔の店員からそわそわしながら受け取ったチョコを寝ている久世の懐に押し込んだ。 「よし」 まだ多少酔いが残っていて頭がふわふわしている野宮は満足げに頷き、水でも飲もうとキッチンへ向かいかけて。 「どこ行くの」 寝ていると思っていた久世に呼び止められた。 「あ……久世サン、食器とか片してくれてありがと」 「うん」 「水、持ってこよーか?」 野宮の問いかけには答えないで、横になったままの久世は懐に押し込まれていた長方形の箱を掲げてみせた。 「俺にくれるの?」 「……はい、そーです」 「まさか七つもらった分の一つ?」 「は? 違うよ? 俺がちゃんと買ったやつ」 「ありがとう」 「……どーいたしまして」 「こんなところに入れたら溶けちゃうよ」 久世はチョコレートの箱をテーブルに乗せると中腰になっていた野宮を手招いた。 手招かれた野宮は、もぞもぞ、また久世の両腕の輪の中へ向かい合う姿勢で戻った。 「うん、やっぱりこっちがいい。(ひろ)の方がチョコより甘くておいしい」 「……凛一(りんいち)、飲ませ過ぎちゃったかな、ごめん」 手触りのいいセーターに片頬を埋めていたら両手で顔を挟み込まれて、ゆっくり、上向かされた。 「紘もチョコみたいに溶ける……?」 日々何やかんやで付き纏う仕事のストレスやら疲労感を忘れて二人はキスした。 幾度となく口を開閉させ、互いに角度を変えて、アルコール摂取で渇いていた唇を濡らし合った。 「……ニンニクくさ」 「たまにはこういうキスもいいんじゃない?」 「うん……もっと……」 「ねぇ、その前に」 「ん……? なに……?」 「紘がもらったチョコレート全部見せて?」 「え」 「気になるから七つ全部見たい」 「え~……もうお菓子入れに直したし……」 「ああ、お菓子入れに……ふ……かわいい……今の、もう一回言ってみて」 「お菓子入れに直したし」 「かわいい」 食い気味に惚気を連発して久世は野宮をぎゅうぎゅう抱きしめた。 「凛一、コタツがグラグラしてグラスが倒れそーです……」 「紘はかわいいなぁ……ぜんぶかわいい……」 相当酔っ払ってるみたいだ……。 飲ませた手前、ちょっと悪い気もするけれど……。 この久世サンゾーン、最高すぎて、本当に溶けそーだ。 さすがに二人くっつくと狭く感じるコタツ、野宮は自分の腹に抱きつく久世の黒髪を撫でた。 いつも甘えさせてもらっている恋人を甘やかした。 「Sっぽい凛一もいいけど、隙があって甘えたがりな凛一もいーなー……きゅんきゅんする……ギャップ萌え……」 本当は。 ざっと後片付けをして水も小まめに飲んでいた久世はそこまで酔っ払ってはいなかった。 懐にチョコを押し込んできて「よし」なんて口にした野宮が愛しくて仕方なく、どうしようもなく底抜けに甘え甘やかしたくなって、酔っているフリをした。 「凛一、いいこいいこ……すンごい好き……」 アラサーにもなって、バレンタインデーにチョコをもらって、こんなにも嬉しくなるなんて……。 今日だけは存分に甘えさせてね、紘……。 冬の寒さがしぶとくしがみつく二月の深夜、溶けかねない勢いでぬくぬく甘え合う二人なのだった。

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