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バレンタインデーオマケ-1
多くの男女が心ときめかせるバレンタインデー。
意中の相手に思い切ってチョコレートを渡そうと、仄かな昂揚感やら緊張感にドキドキしているコもいるに違いない。
「寒い日の残業終わりの鍋って最高過ぎる」
「ニンニクが絶妙に効いてるね」
バレンタインデーの夜、付き合っているアラサーカップルの野宮と久世はあっさり塩スープのモツ鍋をがっつり食べていた。
「久世サン、チョコもらったの?」
マンション二階の野宮宅にて。
一本目の缶ビールをそれぞれ空け、お次はロゼ、歯応えのあるモツやらニラやらもやしやらをハフハフ食べながらコタツでまったり飲み交わす。
至福の晩酌タイムだった。
「ウチはそういう雰囲気じゃなくて。コッチに異動になってからはもらったことない」
「あ、じゃあ前のとこではもらってたんだ? 何せ久世サンだもんな、さぞいっぱいもらったんだろーなー」
「そう言う野宮さんは今日どうだったの」
「あーー……」
「もらったわけだ」
二人で選んで購入したペアグラスの中でゆらゆら波打つバラ色のお酒。
新調したばかりのコタツカバーはショッピングサイトでどれにしようか野宮が決めかね、久世に決めてもらって買ったものだった。
「やばいよ、久世サン、このモツぷりぷりしすぎ」
「いくつもらったの?」
「あ、まだその話題続くかんじ?」
「自分から振ってきたくせに」
三階の自宅へ帰らずに野宮宅へ直行した総務部人事課リーマンの久世、ネクタイを締めたまま無地のセーターを腕捲りし、華奢なグラスを緩やかに傾けた。
「えーと、七つ、もらいました」
総務部総務課で生粋の総務リーマンである野宮、下だけスウェットに履き替え、ワイシャツの裾をウエスト部から不格好に食み出させていた。
「七つも?」
「総務もだけど広報とか、みんな律儀に配ってくれるんだよ」
「ふーーーーーーーーん」
コタツの向かい側でやたら長い相槌を打った久世に、内心、野宮は大いに照れた。
久世サンってば、やきもちやいてる、へへへ……。
「だけどさ、バレンタインデーにモツ鍋食うって色気ないよな」
内心、有頂天になっている野宮の言葉に久世は首を傾げてみせた。
「そうかな」
「だってバレンタインデーって言ったらチョコだろ。ケーキでもいーけど、甘いお菓子が定番じゃ? それなのにモツ鍋ガツガツ食ってる」
久世は取り皿にとっていた脂身たっぷりの白モツを一つ、おもむろに箸で摘まみ上げた。
「へっ?」
無言で顔の前に差し出された野宮は目を丸くさせる。
「あーん」
そう言われると、鍋の熱気で火照っていた頬をさらに紅潮させ、素直にぱくっと食べた。
「モツの方がスケべだと思う」
「ぶはッ」
口の中に入れた肉片を吐き出した、粗相が過ぎる野宮に久世は呆れるでもなく笑って。
テーブルに転がった肉片を指先で摘まむなり自分で食べてしまった。
「あ」
「ん。コリコリしてて、食べ応えがあって、ちょっとクセはあるけど栄養価も高くて夢中になる。そんな自分は肉食動物なんだって実感しない?」
「し……しない……そんなこと言う久世サンがただ単にスケべだって思う」
久世はまた笑った。
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