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週末で賑わう飲み屋街。
集客を狙って奇抜な戦略やら飲み放題コースを打ち出す店が多い中、角の雑居ビル一階にある何の変哲もない焼き鳥屋は野宮 の大のお気に入りだった。
「生とハツと砂肝とシシャモ、それからチャンジャ、揚げ出し豆腐」
一先ず最初のオーダーを済ませ、ワイシャツ腕捲り、おしぼりで両手をフキフキ、食べる準備万端にしておく。
「とりあえず生と、今日オススメの子持ちシシャモと、砂肝、あとチャンジャと揚げ出し豆腐も」
ん? このオーダー、どっかで聞いたか?
聞いたも何も自分とまるで同じ注文をした隣の客。
カウンターの端っこについた野宮がちらりと横目で窺ってみれば、自分と同年代らしき男が姿勢正しく座っていた。
茶髪、クールビズ適用のためノーネクタイの野宮に対し、黒髪、ストライプシャツにネクタイのお一人様。
月に一度は通っている野宮が初めて目にする客だった。
まるで同じ注文をした彼にちょっと気をとられていたら飲み物が運ばれてきた。
「生とシシャモ、ハツと砂肝、チャンジャです、揚げ出しはもう少々お待ちください」
店員さんは野宮、その隣に座った彼に同じ台詞を述べて去って行った。
何となく重なった二人の視線、続いて何となく会釈、次いで見事な注文のシンクロに揃って照れ笑い。
カウンターの内側にずらりと並んだネタの数々、大将と中堅社員に次々と焼かれる肉、肉、肉、慌ただしげながらも笑顔で運ぶアルバイト達。
「久世サンも総務?」
「うん。毎日地味に残業してる」
薬味がたっぷりのった揚げ出し豆腐をハフハフ食べながら野宮が尋ねればジョッキの中身を残り僅かにした久世 は頷いた。
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