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来客者は

大学も普段通り授業が終わり、放課後の実験も無事終了。次は待ちに待ったバイトの時間だ。  裏口を開けると、誰もいなかった。店長と加藤さんと七瀬さんと真央君はネームプレートによると、もう来ているそうだ。素早く着替えを済まし、店内へと入る。 「お疲れ様ですっ」 「おうっ、今日はお客さん多いから、早く行けっ」  加藤さんがパンケーキを焼きつつ僕に言う。 「はいっ」  客波も落ち着いてきた頃だろうか、 「りっくぅん、お客様だよぉ〜」  入り口前で真央君が僕を呼ぶ。 「っ、志麻っ」  そこには志麻と二人の男性の姿が。 「よっ。しっかり働いてっか?」  ニヤニヤしながら志麻が言う。 「どうしたの?今日ずっと家に居るって言ってたじゃんっ」 「サプライズ」  志麻のニヤニヤ笑顔は止まらない。 「客連れてきてやったからよ、感謝しやろよ」 「カフェに男一人で来づらかっただけでしょ。すみません、つき合わせちゃって」 「全然イイっすよっ。前から志麻から聞いてて、行きたいなってこっちで話してたんスヨ」  お連れの一人である茶髪でチャラく優しそうだけど、どこか裏がありそうな方が言った。 「僕のこと大学で話してるんだ」 なんて思いながら。 「ほんとすみません。では、こちらへどうぞ」  席へと案内している時には、周りの僕を目当てとして来店されているお客さんが「誰あの男たち?なんか仲良し過ぎない?」なんて書いてある顔で、僕たちを見ている。 「では、ご注文決まり次第、お呼びください」 「はーい。ありがとう」  さっきのが効いたのか、志麻が静かになっていた気がする。少しの冗談なつもりだったんだけれど。 「やり過ぎかな?」 小さく呟き、他の呼ばれた席へと向かった。  他の席では「あの人知り合い?」などを何度も聞かれた。さすがに、「彼氏です」なんて言える訳もなく「高校の時の友達ですよ」と返す。間違ってはいないが、嘘をついているようで心が痛んでいった。  フロアを歩き回るたびに、志麻が座る席を何度も見てしまう。たまに目が合い、志麻の表情を見る前にそらしてしまう僕。 「りっくーん、注文お願いしまーす」  茶髪のあの男性が僕を見ながら言う。それと同時に、常連さんの女性が、 「陸ちゃーん、注文お願い〜」  僕はどちらに行くのが正しいのかと葛藤し、男性は満面の笑みで、女性は頬を少し膨らまし、僕を見つめる。両方のテーブルを交互に見ていると、 「陸ちゃーん、まだー?」  男性側は間接的には知らない人ではない、後で謝れば済むかもしれない。しかし、女性の方は常連さんとはいえお客様だ。評判が下がるとお店にまた迷惑をかけてしまう。とっさにそう思い、僕は志麻のテーブルに軽くお辞儀をし、「はいっ」と返事をし三人の女性の待つテーブルへと小走りで行った。 「遅い〜」 「すみません…」  キッチンに先ほどの女性たちの追加注文された品を伝えに行った時に聞いたが、志麻のテーブルには七瀬 さんが行ってくれたみたいだ。その際に「陸じゃなくてすみませんね」と言って、「全然。俺的にはガタイが良い方がいいですし」と、もう一人のお連れの方である、細い目の銀縁眼鏡をかけた男性に言われた。そのことを話す七瀬さんの目は全く笑っていなかった。  それから数十分が経ち、志麻たちが席を立った。そのままレジに向かっていたので、帰るのだろう。結局テーブルに案内する以外志麻たちのテーブルには行けなかった。タイミングよく他のお客さんが僕を呼ぶのだから。今日は奇跡が起こる日だったのだろう。  レジの担当は真央君がしていた。 「りっくぅんー、レジお願ーい」  その時僕は、他のテーブルについていたため、すぐには行けなかったが、対応が終わると小走りで向かった。 「遅れてしまってすみません。あと、呼んでいただいたのに、行けずにすみませんでした」 「全然っ、あの女性たちの方が大事だからねっ。気にしないでっ」 「本当にすみません。あの、割り勘でよろしいでしょうか?」 「いや、俺が」  細い目の方が鞄から財布を取り出し言った。 「では、千百円になります。ポイントカードは作成なさいますか?千円以上の購入をされるごとに一ポイントが貯まり、五ポイントが貯まりますと飲み物が一杯無料となります」 「じゃあ、頼もうかな」 「俺もいい?」  キャッシュトレイに代金を置きながら返事をされ、茶髪の男性も返事をされた。 「分かりました。では、こちらにお名前をご記入ください」  そこに書かれた名前は、細い目の男性は『藤山 京真』。茶髪の男性は『須々木 渉』。そして、二人とも性格から想像できる字をしていた。その間志麻は、僕と全く目を合わさず、窓から見える外の風景を見つめていた。 「ありがとうございます〜」  志麻たちが帰ると、真央君がフロアで使用するお盆を両手で胸元に持ち、小さくスキップをしながら、 「志麻君なんか機嫌悪くなかった?」 「来店された時のやつが悪影響だったのかなって」 「ほぉ。でも、違うと僕は思うよっ」  小悪魔のような笑みで僕を見る。 「どうゆうこと?」 「それは、本人に聞かないと意味ないよっ」  真央君はそう言い残し、フロアを回りだした。 「帰るまでのお楽しみってわけですか」  小さく呟き、呼ばれたテーブルへと向かった。

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